第37話「もぅ、美月のお・こ・り・ん・ぼ♪ そんなことより、アタシ犯人わかっちゃったー」
俺の目の前でグラリ、と木陰さんの身体が倒れていく。
狭い物置部屋で倒れたらマジで怪我をしてしまう!
頭を打ったりしたら大変だ!
「危ない――!」
俺はもう一瞬の判断で、助けなきゃって思いだけで、とっさに木陰さんの身体を抱きかかえにいった。
木陰さんの斜め後ろから、ガバッと両手を広げて、不格好に木に抱き着くコアラのごとく木陰さんを抱きとめる。
「あ――っ」
俺の腕の中で木陰さんが小さな声を上げた。
だけどそれは痛みを訴えるようなものではない。
俺のとっさの行動は、なんとか間に合ったようだ。
「大丈夫、木陰さん?」
「う、うん……でも、あの……」
「どうかした? 足とか打っちゃった?」
怪我でもしてたら大変だ。
すぐさま探索は切り上げないと。
「ううん、そうじゃなくて……だからあの、拓海くんの手が……」
「俺の手が……?」
木陰さんに言われた俺は、深く考えることなく右手をワキワキさせてみた。
すると、もにゅもにゅというマシュマロのように柔らかくて柔らかくて柔らかすぎる感触が、俺の手のひら全体に返ってきた。
「ぁ――んっ♪」
同時に木陰さんが、しっとりと切なそうな声をあげる。
……。
…………。
「おうぇっ!!!!????」
俺はここにきてやっと、今の状況を正しく理解した。
俺の右手が木陰さんのマウンテンを鷲掴みしていることに、今さらながらに気が付いてしまった。
ものすごい柔らかいものに、俺の右手が埋まっている。
慌てて右手を離すものの、
「ん――っ♪」
急に離したからか、またもや木陰さんからは切ない声が上がる。
「わ、悪い! そういうつもりとかなくて! 木陰さんがこけたら大変って、怪我したらヤバイって、それだけでさ!」
手を離し、身体を離した俺は即座に全身全霊を込めて謝罪した。
さっきは陽菜に、今度は木陰さんに。
今日の俺は謝ってばかりだ。
「うん、わかってるから……拓海くんは助けてくれようとしただけだってこと」
そう言った木陰さんの顔は真っ赤っかだ。
男に胸を触られたんだからそりゃ恥ずかしいよな。
「そう言ってもらえると嬉しいけど……でも本当にごめん」
俺は改めて謝罪した。
「ふふっ、心配しないで、ね?」
木陰さんはそういうと、優しく微笑んでくれた。
顔はまだ赤いが、怒っているようには見えない。
さすが木陰さんは優しい女の子だなぁ。
頬を染めながらはにかむ木陰さんを見て、俺の胸がトクンと強く鼓動を打つ。
やばい、恥ずかしげにはにかむ木陰さんが可愛すぎて、なんか俺まで恥ずかしくなってきたんだが!?
と、
「じー……」
そんな俺たちを陽菜が見ていた――スマホ越しに。
「ちょ、ちょっと陽菜ちゃん!? 今の撮ってたの!?」
「や、なんか2人がいい感じだったから、つい手が自然と」
「つい、って……」
「あはは、大丈夫だいじょーぶ。変なのは映ってないから」
「変なのって?」
「たくみんが美月のおっぱいをモミモミしたとことか?」
「~~~~~~~~~っっ!!」
「してないからな!? 不慮の事故だったんだからな!?」
せっかく俺は無実だと木陰さんが言ってくれたのに、蒸し返さないでお願いプリーズ!
「冗談だってばぁ。仲良さげに抱き合ってるカップルが映ってるだけだからー」
「陽~菜~ちゃ~ん!」
「だから冗談だって~。もぅ、美月のお・こ・り・ん・ぼ♪ そんなことより、アタシ犯人わかっちゃったー」
「犯人って?」
陽菜がからかって遊んでいるだけだと判断した俺は、カップルがどうのは全部スルーして、気になったところを尋ねた。
「美月を驚かせた犯人……それはお前だー!」
ビシィっと陽菜が指差した先には、物陰からちょこんと顔を出して俺たちを見上げるクロトがいた。




