第36話「やーん、たくみん優しー♪」
「小さいひな人形があったけど、最近は飾ってないね」
「節句って言うんだよな? 最近はあんまりそういうのお祝いしないよな。西洋由来のクリスマスとハロウィンの方がむしろメジャーっていうか」
「廃れゆく日本文化……アーメン」
陽菜が十字を切った。
「……」
廃れゆく日本文化をまさに体現していた。
話の流れ的に、ここはせめて両手を合わせるとかにしような……?
「でもこの子、ちょっと美月に似てない? 清楚系美人なところとか」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことなくないってばぁ。ねー、たくみん。清楚美人なところが美月と似てるよねー」
ちょっと陽菜ちゃん?
そこで俺に振りますか?
「……まぁ、似てるよな。どっちも美人だと思うよ」
ぶっちゃけ木陰さんは誰が見ても清楚な美人だと思う。
優しそうな笑顔と、控えめで物静かな性格もあいまって、木陰さんのことが気にならない男子はいないだろう。
けどだからと言って、それを本人の前で口に出すのはすごく恥ずかしいから、できればそういうセンシティブなネタ振りはやめて欲しいな!
「だってさー、美月。たくみんが美人だって。よかったねー♪」
「う、うん。ありがとう……」
顔を赤らめながら、消え入りそうな声で呟く木陰さん。
俺みたいな一山なんぼの十把一絡げなモブ男子Aからであって、美人と言われると女の子的には嬉しいのかな?
まぁ誰でも褒められると嬉しいもんではあるんだろうけどさ。
後は真面目な木陰さんのことだ、褒められたらお礼くらいは言うだろう。
俺に必要なのは「これって俺に気があるんじゃね?」などと恥ずかしい勘違いをしないことだ。
「そうだ、記念に撮っとかないと」
陽菜がスマホを取り出して、ひな人形をパシャリとする。
さらには、
「ほらほら2人ともこっち向いて、笑って笑って、はいチーズ。もー美月、笑顔が硬いよ~。はい、もう1枚」
振り返った俺と木陰さんのことも撮影しはじめた。
「画像をまとめて送信っと」
ピコン。
すぐさま俺と木陰さんのスマホからラインの着信音が聞こえる。
さすがキラキラ女子。
撮影から画像の送信まで、早くて手際がいい。
俺なんかあんまり写真を撮ることもないし、送信することもないから、その都度、
「やり方ってこうだったよな……?」
って考えながらやるから、イチイチ時間かかるんだよな。
「じゃあ写真も撮ったし、ひな人形は片づけてキャットタワー探索に戻ろうか」
「はーい♪」
「ちゃんと元あった通りに、丁寧に戻さないとね」
「美月ー、任せたー」
「うん、任せて」
木陰さんが緩衝材の紙を元の通りに綺麗に詰め直すと、しっかりと蓋を締めてから、
「うんしょっと」
可愛い掛け声とともに探索済みエリアに箱を置こうとする。
「重くない? 俺が持つよ」
「ううん、大丈夫。そこまでじゃないから任せて」
「了解」
出しかけた手を俺はひっこめた。
「やーん、たくみん優しー♪」
「そんなんじゃないから。隣で女の子が重そうにしてたら、誰でも手伝うくらいはするから」
とまぁ珍しいものを発見して少し横道に逸れたものの、またこれで探索を再開――と思ったところで事件は起こった。
「ふぁぁん!? ひぁっ♪」
ひな人形が入った箱を持った木陰さんが可愛らしい声を上げたかと思うと、いきなりバランスを崩したのだ。




