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それで次に『来月にまた北野異人館街のどこか行きたいところを決めて
行きましょう』と誘われた折に、百子は脚の不調を理由にやんわりと断った。
そしてまたいつかというような含みの言葉も告げず
『気心の知れた若い人たちと行かれたらいかがですか』と書いて送った。
自分といた時に彼は会社の女性社員と遭遇していたので、なんとなく
簡単な書き方でも察するのではないかと、簡潔に書くに留めた。
『そうですか、脚が辛いと出掛けるのはきついですね。分かりました。
お大事になさってください』
山下からそのような返信がすぐに折り返しきた。
彼もまた『じゃあ又の機会に』とは書いて寄こさなかった。
『じゃあ又の機会に』と言われたらどう返事をしようかと悩ましい気持ちで
いたのに、少し残念な気持ちになるのだった。
おばさんの気持ちはナイーブで迷走気味である。
◇ ◇ ◇ ◇
『さてと、今夜は何にしようかしら』
なんて献立のことを考えながらイオンスーパーの駐車場に車を止めて
店舗へ向かった時のこと。
「石倉さん!」
誰かが私のほうへ『石倉さん』と声をかけているみたいだけど……。
「石倉さん、先日お会いした島本です」
振り向くと見覚えのある女性が近くにいて、私に話し掛けてきた。
『石倉って? そっか私のPNだった』
それと目の前の女性はよく覚えている。
北野で会ったあの時の彼女だ。
「失礼しました、あの時は思い出せなかったのですが、後から
映画の原作者のPN-石倉茉桜さんだと気が付きました。
その節はちゃんとしたご挨拶もせず大変失礼いたしました。
山下さんも何も言ってくれないんですもん……じゃなくて、
迂闊にも思い出せなかった自分のせいです」




