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「忙しい中のしばしの休息もなくなって、前島もご愁傷さまだな」
「仕方ないですよね。
3月辺りまで猫の手も借りたいほどの繁忙期ですから」
「まぁ、時間の取れる時にちゃんと休養しておかないとな。
島本さんは今週は休日出勤はないの?」
「実は明日半日ですが出勤する予定になってます。
山下さんは?」
「俺はきっちり土日休みを取るよ」
「わぁ~、いいなぁ~」
◇ ◇ ◇ ◇
話をしている間に運ばれてきたのは島本のエスプレッソに
山下がオーダーしたカプチーノだった。
島本の手元にあるハートマークの浮かんだエスプレッソを見ながら
何気に山下は人気らしいスポットの話題を彼女に振ってみた。
「島本さんだったらこの近辺で友だちと行くならどこがお勧めかな」
「それって女友だちとっていうことでしょうか」
「う~んと……、じゃあデートも含めてってことで」
「私一度学生時代に行ったことがあるんです けど、異人館が立ち並ぶ
北野の異人館街がよかったですよ。
近くにフランス料理を堪能できるお店もありますし。
あぁ、もちろんフランス料理のほうは就職後会社の同僚とですけどね。
学生の分際で行けるお店ではないので」
「私でよければ、異人館もレストランもご案内できますけど?
前島くん誘って3人で行ってみます?」
「ははっ、若者の邪魔はしたくないなぁ~。パスっ」
前々から仄かに好意を寄せている山下との二人きりで話せるというチャンスを
ものにするべく、かなりの勇気を振りしぼり誘ったつもりだったが一刀両断
されてしまった。
『前島くんを誘って』というのはよけいだっただろうか。
けれど『私と』と言って断られることはとても耐えられそうになかった。
亜弥子からすれば、3人で行くことにして後で前島に気持ちを伝えて
2人で行ければ、との望みをかけていたのだが。
がっくり項垂れていると、白けた空気をものともせず山下が言った。
「コーヒーもなくなったし休憩終わり、終わり~。
早く帰って寛ぎたい~。ごめんな爺臭くて。
もう40代、疲れるんだよぉ」
「分かりました。
さてと、私もまだ20代ですが同じく家に帰って疲れを取るとしますか」
私ったら何やってんだか。
◇ ◇ ◇ ◇
天から降ってわいたようなチャンスをものにできず亜弥子は
一挙に疲れを感じるのだった。




