83
83
年上過ぎてこちらから誘うのはなんだか気が引けて自分から進展させることも
できずにいたけれど、ある日チャンスが巡ってきた。
前々から自分に気があるらしい1つ年下の前島から休日出勤の帰り道
『お茶でもどう?』とすぐ先に見えるカフェを指差しながら誘われた。
たまたま帰ろうと社屋を出たところ視線の先に山下の姿を見つけ
『どうしよう、こんなチャンスもう二度とないかも』
と変に焦っていたところだった。
……というのも帰宅時間が同じになるなんて今までなかったから。
同じ頃というのはあったのかもしれないが、視界に入るくらいの同時刻
というのはなかったのだ。
亜弥子は小走り気味に急いで歩き出した……ものの、なかなか声を掛ける勇気を
持てずにいた。
そんな時だったのだ、後ろを歩く前島から声をかけられたのは。
ちょうど山下のことを考えながら歩いていたこともあり、亜弥子は反射的に
前島に返事をするより先に、前方を歩いていた山下に声を掛けていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「山下さぁ~ん、前島くんとお茶して帰るんですけど一緒にいかがですか」
私の声掛けに山下さんがこちらを振り向いた。
「おぉ、いいね。仕事疲れで喉を潤したいって思ってたところだよ」
「山下さん、どっかで寄り道して一杯ひっかけて帰ろうとしてたんじゃ
ないっすか」
「ンまぁ、そんなとこかな、ははっ。で、どこにする?」
「そこにしませんか」
前島くんがさっき指差してた店を改めて提案した。
私たちが席を決めて座り、何を注文するか決めていた時のことだった。
前島くんの携帯が鳴った。彼があちゃぁ~って顔をした。
すぐに電話に出て対応した前島くんが言った。
「気にはなりながらたぶん上手くいくだろう、いってくれぇ~って思ってたら、
やっぱりやり直しの指令がきたぁー」
と絶叫し、彼は御免のパフォーマンスを残し社屋に戻って行った。
私と山下さんはふたりして、彼のまるで独り芝居のようなパフォーマンスを
ジトーっと眺め、彼がカフェの扉を開けて慌ただしく出て行くのをぼんやりと
見つめた。
「あーあ、言い出しっぺがいなくなっちゃいましたね」
「相変わらず落ち着きのないヤツだよ、まったく」
前島くんGood Jobだよ。サンキュー。




