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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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◇山下と百子


 手紙を出して数日後、山下からメールがあった。


『手紙をありがとうございます。

 近況ついでに、食事でもいかがでしょうか?

 久しぶりに一度お会いしませんか』と。



 はて? 山下は自分が離婚したことには触れていないが、どうなのだろう。


 うっかり気付いていないのか、それともあった時にその話題を

持ち出してくるつもりなのだろうか。



 山下のことだから変に気の毒がって自分を不愉快にすることは

ないだろうと思うが。



 とにかく、彼に誘われて嫌な気持ちにはならなかった。


 ただ百子が唯一気にしていたのは山下から

『今、小説はどうなっていますか』

と、小説のことを持ち出されることだった。



 ストックはたくさんあるのに世に出されずノートとパソコンのwordの中で

ひっそりと眠っている。



 その為、折角食事に誘われたというのに心からの嬉しさには至らない。



 彼の仕事柄、何かを言ってほしい気持ちと小説のことには触れてほしくない

気持ちとがないまぜになるのだ。



 それは……

『新作なんですが読んでみていただけますか』

と言えるような自信がない所以であった。



 そのような気持ちを抱えてはいたものの自分の出した手紙にすぐに反応を

返してくれたことはやはり嬉しいものがあり百子はすぐに山下に返信メールを

返した。



          ◇ ◇ ◇ ◇



 北野の異人館街周辺にあるプラザホテルで食事をと山下から提案され、

百子と山下はJR三宮駅の西口で待ち合わせすることになった。




「僕は異人館街は一度周辺をざっと歩いた程度なんですけど、石田……

じゃなかった、えーっと少し距離感が近すぎるかもしれませんが

百子さんって呼ばせていただいてもいいでしょうか?


 なんか今更っていうか違う苗字で呼ばせていただくのも心情的に

微妙なもので」




「え~、逆にいいんですかって聞いてしまいそうです。


 ふふっ。

『百子さん』なんて呼ばれることなんてほとんどないものですから。


 いいですね。

 自分の名前なのに手前味噌になりますけれど……いい感じです。


 ちょっと照れくさいですけど、慣れます……絶対慣れるようにしますから

名前呼びでどうぞお願いします」




「分かりました。

 あぁそれでですね、歩いて15分くらいですかね。


 ゆっくり歩いてそれでも20分くらいあれば着くと思いますがまぁ、

食事の後のことなども考慮して後々疲れないようにここからはタクシーで

行こうと思うのですが……」




 山下さんの現地まで車でという提案は有難かった。


 ラヴラヴ恋人同士ならいざ知らず、恋人同士なら熱量であっという間に

現地に着いてしまえると思うけれども、私と山下さんとの距離感で散歩がてら

歩くとして、何を話していいのか分からないもの。



「そうですね、話はお食事の時にでもゆっくりできますし」


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