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山下はすぐに二世帯住宅に住む母親の元へと向かった。
台所に入ると仕出し屋で取ったと思われる空の寿司の桶や汁茶碗が
並べられていた。
「母さん、真理が……」
「ああ、あの子ねぇ、どうしようもないわ全く。
夕ご飯の支度もしないでどこほっつき歩いてるのかしら、仕事もせずに
専業主婦で楽させてもらってるのにね。
今まで黙ってたけど、もう我慢ならないわ。
司も悪い女に引っかかったわね」
山下は母親の台詞に卒倒しそうになった。
今までの自分の知っている母親はどこへ行ってしまったのか?
優しくて品があって。
今のいままで真理の主張に対して何かの間違いではないのかと……
信じられないという思いが強かったが目の前の女の台詞を聞くに、あぁ、
真理の言っていたことはたぶんほぼほぼ間違いなく本当のことなんだろう
と思えた。
「ずっと、ネチネチとそうやって彼女に嫌がらせしてたのか」
「なに、あの子がそんなこと言ってんの?
嫌がらせなんてしないわよ。
司、私がそんな人間に見える?」
「じゃあどうして、真理の下着が全部肌色で形状も同じような
地味なものだけになってるんだ?」
「色気づいて、ピンクやレース柄なんてのばかり洗濯物で干しているの
見たから、慎み深くしなさいってアドバイスしただけじゃないの」
「気持ち悪いこと言うなよ。
色気づいてって、新婚の若い女性に使うような言葉じゃないだろ。
まるで自分こそ変な詮索する色気ババァじゃないか」
二人の言い合いが始まると母親の尻に敷かれている父親はリビングを
こっそりと抜け出し行ってしまった。
「親父がいるのにどうして毎度毎度真理を買い物に連れまわしてたんだよ。
食事だって捨てて作り直しさせてたんだろ」
「あんなの人の食べるものと言えないじゃない。
だからちゃんといい奥さんになれるように指導しただけよ」
否定しないのかよ~、参った。
「俺の選んだ女性にやさくしできないんだったら、最初から言ってくれりゃあ
よかったんだよっ。
そしたら二世帯住宅とはいえ、同居なんてしなかったのに。
真理はもう帰ってこない、俺たちは離婚になるだろう。
俺もこの家を出て行く。
この先結婚してもしなくても、母さんには二度とパートナーは紹介しない」
「ちょっと待ちなさい。この家のローンどうするのよ」
「売ってくれ。
そっちが俺の生活をむちゃくちゃにしたんだからな、ローンは知らんっ」
親父もお袋も幾ばくかのローンをまとめて返済できるだけの蓄えは
持っているのだ。
俺がこのままバックレても無問題だ。
住むところが決まれば俺も出て行く。
その後、山下は一切母親とは交流を断っている。




