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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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◇山下の受難



 実は山下には結婚歴があり若い頃に一度結婚している。



 母親と妻の折り合いが悪くすぐに離婚した為、それは

一年足らずの結婚生活となった。



 山下は大学生の頃から交際していた同級生と卒業を待ってすぐに結婚した。


 両親からの、ゆくゆく同居するのなら最初から親しんで慣れておいた方が

よいという言葉に従い、妻になる元木真理もすんなりと受け入れてくれた為、

新婚から両親とは二世帯住宅という形での同居生活が始まった。



 山下は当時新入社員で、研修から始まり残業も多く本当に仕事を

覚えるのに必死だった。



 その為、妻の精神状態が極限まで疲弊していることに気がつかなかった。


 妻も山下に対して遠慮があったのだろう、事情を話してくれたのは

別れを決意した後でだった。



 話を聞いて初めは俄かに信じがたかった。

 自分や妹にはやさしかった母親が妻となった真理を苛め抜いていたとは。



 食事は自分たちのも真理に作らせていたようで、気に入らないからと

食事を流しに捨てさせやり直しさせたり、箪笥をチェックしていやらしい

下着だと文句をつけ真理の持っている下着を全て捨てさせ、色は肌色の

下着のみで揃えるよう買い替えさせていた。



 買い物も真理に便乗する形で車を出させたあげく、トイレットペーパーは

あの店のでないとだめなのだと先に着いたスーパーにもトイレットペーパーが

あるにも拘らずそこで買わずわざわざ別の店まで移動させたり、お肉は

あそこの店のがいいのだと更に別のスーパーに行かせたりしていた。



 山下は真理が忍耐の限界に達し家を出た後でそれらのことを知った。



 山下が真理からの決別のメッセージを受け取ったのは

金曜の仕事帰りの電車の中でだった。


 LINEに二行……。

『もう限界です。あなたやご両親とは一緒に暮らせません。

離婚してください』


帰宅するや否や、山下はすぐに真理に連絡をした。




 真理から電話で聞かされたこれまでのこと。

 あの母親が……まさか!


 俄かに信じられない山下だった。



 電話を切った後で箪笥の中を見てみると確かに白い色の下着は

一枚もなく肌色で統一されている地味な下着ばかり。


 離婚届に山下が判を押し離婚が決まれば必要なものを

取りに来ると言った真理。



 下着や家計簿など自分の話したことの裏付けになるものだから

わざと置いて出たのだと言った。



 家計簿を開けて見た。

 同じ日付、毎度2店舗、酷い日には4店舗行かされていたのが

レシートから分かる。



 トイレットペーパーだけの為に4キロも離れた薬局へ行かされたり

饅頭だけの為に数キロ離れた店に連れまわされたりしていたのだ。



 後々の証拠の為に真理は捨てさせられた食事である廃棄物の画像も

後からそっと撮影していてパソコンのフォルダーに日付をつけて

保存してあった。


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