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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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 家電と映画両方いけるところということで、久しぶりに人工の島

神戸ハーバーランドへと足を延ばした。



 木曜のスケジュールは9:20分からで次の開演が12:00になっていた。


 12時までには充分時間があったのでホームセンターコーナンで

ファンヒーターやらエアコンやらいろいろ見て時間を潰し、その後映画館へと

 向かった。



 最初は旦那の浮気もので、まぁありがちな話だなと観ていたのだが。

 浮気した旦那が父親の会社を継ぐというところまできて冷や汗がでてきた。



 夫婦の浮気の話なんて結局どれもこれも同じようなものなんじゃないのか、などと

思い気楽に見ていたのに。




 妻にこれといった不満などないのに、父親と一緒になって妻に離婚を言い渡すところ

なんて思わず自分のことかと思うほどリアルなのだ。




 夫の父親の台詞が、昨日聞かされた親父の台詞に似ていた。

 映画の中の夫の父親が妻に言う。



『仕事のパートナーになれないのだからここは潔く身を引きなさい』




 こんな偶然があるっていうのか。


 違っているのは実際の俺はその場にいなかったが、映画の中の浮気した夫は

父親の横で頷きながら同意している。




 百子も俺に縋ったりしなかった。

 映画の中の主人公女性も同じだった。




 夫が弁護士を挟み慰謝料、養育費の一括払いを提案すると妻は淡々とそれを受け入れ

『離婚は娘たちがもう少し大きくなってからにしたい』と夫に申し渡す。



 夫側はそれを受け入れる。

 まるで俺たちの離婚劇とそっくりじゃないか。



 疫病が原因ではないが、父親から継いだ夫の会社は斜陽の一途を辿り、夫ともども

夫の両親も困窮するというストーリーになっている。




 結局その妻は新しい出会いがあり恋をして再婚し、

幸せになるという展開で完結する。




 実際の百子は再婚などしていない。


 そして少なくとも、映画がクランクインした頃、俺の会社は

倒産していなかったから、ただの偶然だよな。



 だが腑に落ちない。

 そう親父が言い放ったという台詞が余りにも似ていたからだ。




 あと気になったのが、妻と夫との出会いのシチュエーションだった。

 まったく百子と俺の場合と同じだったのだ。



 上司と部下の恋愛からの結婚。

 一途な主人公の気持ちが健気だった。



 同じことをしたことも忘れて映画に没頭するうちに

俺はいつの間にか夫役を詰っていた。



 そして我に返り、自分を信じて付いてきてくれた百子への裏切り行為が

どれほど酷いものだったかを悟り、愕然とした。


 そうだ、思い出した。



『相手に子供ができた以上責任をとらなければならない。

 申し訳ないが離婚してくれないだろうか』

と俺は百子に離婚を迫った。





 何年も共に暮らし、自分の子を二人も産み育ててくれたというのに、

ただの浮気相手に過ぎなかった女を選び、百子と子供たちをポイと捨てたのだ。




 俺は顔を覆い隠し、下を向いて声を殺して泣いた。




 泣いている自分の行為にわけが分からず混乱したが、涙が後から後から

出てくるのだ。



 世間でいうところの非道なことをしてきたが泣くようなことだなんて

露ほども思ったことのない自分がここで泣いているのだ。



 何故自分は涙が零れるのだ?

 たった一つしかない理由を知った。



 いかに酷い仕打ちをしたのかということが腑に落ちたからこその涙なのだ。   

 詫びても詫びきれない己の罪を今初めて気付いた瞬間だった。





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