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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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『はい、秋野です』


 インターホン越しに聞く百子の受け答えに伸之はドキリとした。

 それは百子が旧姓を名乗ったからだった。


 連絡は受けてないがおそらくすでに離婚届を出しているのだろう。


 おそらく役所から自分の元へ受理通知が届いていたはずだが、慌ただしい

日々の中、目を通せていなかったのだろう。


 籍も抜けて今や真っ赤な赤の他人になってしまっている。


 くじけそうになる気持ちをどうにか立て直して挨拶をする。


『ご無沙汰してます。伸之です』



          ◇ ◇ ◇ ◇


 夫が、元夫が家の前にいる。

 何なのだろう、今頃。

 想像がつかない。




 私は急いで玄関に向かった。

 ドアを開けると懐かしい人の顔があった。



 嘗て夫だった人は他人行儀に押し黙ったまま、何か言葉を探しているようにも 

見えた。

 そして……やつれて見えた。

 外の風は冷たい。

 頭で考えるよりも先に口が紡いでいた。





「寒いからどうぞ。

 コーヒーでもいかが、今日は特に冷え込んでるみたいだから」




「ああ、お邪魔します」




 知らない中じゃないので、ソファのほうではなくリビングダイニングの

椅子を勧めた。


 伸之さんは脱いだコートを隣の椅子の背凭れに掛けた。


 私はお客様に対してするようにコートをハンガーに掛けなおしたりは

しなかった。


 曖昧な関係の人との距離の取り方って難しい。

 私が淹れたコーヒーをゆっくりと堪能するように伸之さんが飲む。




 私も同じようにコーヒーに口をつけた。





「元気そうだね」


「ええ、好きなことをして暮らせてるので。お陰様で。あっ……」


「ン?」




「連絡しないとと思いながら伸び伸びにしてたんですけど、離婚届を

今年の初めてに出してたの。連絡してなくてごめんなさい」




「うん、さっき『秋野です』って言っただろ?

 最初戸惑ったけど、あれで分かった。

 ところでうちの会社のこと知ってる?」



 百子は被りを振った。





「でも……武漢からのコ〇ナの流行を見ていて、もしかして物販関連の

企業や飲食店なんかは、厳しくなるんじゃないのかな、なんていうのは

考えてたわ。 厳しいの?」


 

「潰れた……」



「えっ、倒産ってこと?」



「会社はもちろんのこと自宅も親の家屋もみんな失くしたよ」



「じゃあ、今は」



「賃貸アパートに両親と三人身を寄せている」



「百合子さんと子供は……」




「入籍もしてなかったし、逃げ出すのに躊躇はなかったようで

子供の日にはもう出て行っていなかったな。

 実家にしばらく帰ると言って出ていったんだが、帰って来ると

思っていた俺も馬鹿だね」




「そうなんだ、それは……」




「君のところへ来れる筋合いじゃないのは分かっているけど、でももう

君のところしかなくてね。


 お恥ずかしい話なんだけど。

 こんなことをお願いできる義理じゃないが万策尽きてもうどこにも誰にも

借りられるところがなくてね。



 なんとか賃貸に入居したはいいが、来月の家賃も目途がたたない始末でね。

 暖を取る炬燵もないんだ」




「お義父さんもお義母さんも寒いのは堪えるよね。

 ちょっと、待ってて」




 お金なんて出せないと一蹴されても仕方がないのに『待ってて』と

言い置き、百子は奥の和室に入って行った。





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