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「申し訳ないのですがそれだけは譲れないというか、普通に創作した小説と
いうことでお願いしたいと思います。
活字の方は結構信憑性が高いといいますか、その時自分が感じた
正直な心情なども吐露しておりますので、その辺は身内や近しい人間
もしくは夫が万が一読んだ場合のことを考慮して変更させて
いただきたいと思います。
その上で漫画家の方に描きやすいように手を加えていただいて
構いません」
「分かりました。
じゃあ書き直しの原稿を早々に送っていただけますでしょうか。
大筋はすでに漫画家の方と進めていますので」
「はい、なるべく早くお送りさせていただきます」
「ありがとうございます。
……あの、気になっている個所がありまして。
一つだけ質問してもよろしいでしょうか」
「なんでしょう」
「ご主人の会社は倒産しそうなのでしょうか?
予兆というかそういうものが何か……」
「いえ、業績はいいみたいで、この先もっと収益を上げていきそうです」
「でも小説の中では会社が傾いていく様子が描かれているのですが、
そうしましたらここは創作ということになりますよね」
「怖いですね。
醜いことに、願望を乗せて書いてしまったのかもしれません。
夫の会社は、って今はまだ舅が代表ですが、彼らの会社はものすごく
業績がいいというのに、小説を書いている時にフっと『倒産』という
二文字が心の中に浮かんだものですから。
まぁ、小説としても最後に裏切り者が落ちぶれるというのは読者に
受けるかもと思ったりして実録から外れますが書いてしまいました」
「いやぁ、そんなお話を聞いて不謹慎ですが……ちょっとワクワクして
しまいました。
石田さんの予想というか胸に浮かんだことがもし本当になったら、
そういう予知能力があるっていうことが証明されますから。
まぁ、ある意味人の不幸になるので当たらない方がいいと思いますが」
「そうですね、きっと当たらないと思います。
小説の中でだけでも、ギャフンって言わせたいっていう……」
「分かりますよ。ははっ。じゃあ今日はこれで失礼します」
帰りゆく山下さんの背中に私は呟いた。
『私の歩んできた日記なんて本当につまらないって思ってたのに。
山下さんっていい人よね。ありがとー』




