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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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 ◇最後の夜



『最後のデートだけど、特別なことは言わず特別なこともせず、いつものように

過ごし、それぞれ帰っていきましょう。


 私はそういうのがいいです。

 しんみりしたくないから』




 そう言われ石田は安堵の吐息を吐いた。



 こういう関係の場合の別れ方というものが初めての経験だったからだ。



 気まずくなるのは避けたかった。


 お別れのプレゼントをとも思ったが別れの話になってから最後のデートまで

一週間もなく、買う暇もないままお別れDayになってしまった形だ。



 食事と酒を少し胃袋に入れていつものようにラブホへ向かう。




 妻とは別れないと言った男との最後の夜、百合子がどのような気持ちでいるのか

掴めない石田は、なんとか儀式のように行為を終えはしたが

結局熱くなることはできなかった。



 ……だが最後の礼儀としてやさしく百合子を抱きしめることは

忘れなかった。


          ◇ ◇ ◇ ◇





 最後の夜も石田はやさしかった。



 それは冷たいやさしさだと百合子は思った。



 石田がシャワーを浴びている間に百合子は細い針でスキンに

細工を施し袋に戻した。



 そして石田がスキンを手にする一歩手前に素早く気配りと見せて

自分が枕元から手に取り、袋の封を破る振りをして手渡したのだった。



 あまり時間がなくて、ちゃんと数か所上手く穴を開けられたかは

自信がなかった。



 妊娠するかもと思うとテンションが上った。




 良かったのか……どうか、お蔭でくだらないことを考えずに

石田との最後の夜を過ごせたのだから結果オーライだ。



 泣くことも縋ることもなく、きれいに別れられた。




 

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