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『愛のため、さよならと言おう』  作者: 設楽理沙


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 独身の頃はモテたものの、略奪したり、されたり、というような世間から

叩かれるような恋愛ごとは皆無で、お天道様の日の射す道だけを歩いてきた

伸之には、後ろ暗い付き合いを余儀なくされ、その場に捨て置かれている

女の気持ち(腹の底)など分かろうはずもなかった。




 付き合いも軽く2年を過ぎ、もうすぐ3年めが見えてきた頃に百合子から

初めて結婚を仄めかされ、迂闊にも自分は放流する時期を逃したのだと

自分の脇の甘さを呪った。



 相手から直球で迫られたからにはこちらも真正面から誤魔化すことなく

返事をするしか術がなかった。

 



妻に対して一切不服はない。




『良くできた妻であり子供たち共々愛しているので妻と別れるつもりはない』

と百合子に言った。



『妻と別れて君と一緒になるつもりはない』と明確に言いたかったが流石に

それは憚られ『妻と別れるつもりはない』とだけ伝えるに留めた。





 百合子はそれ以上、自分を困らせることなく『分かりました。

じゃあ最後に一度だけデートして下さい。


それを石田さんとの最後の思い出にしますから』と言った。




 実を言うと伸之はまだまだ百合子と関係を持つこと自体には未練があった。

 しかし一方で、百合子があっさりと引き下がったことにほっとしている自分もいた。

 


 修羅場になり家庭が崩壊するリスクは避けなければならなかった。

 



          ◇ ◇ ◇ ◇





 なけなしのプライドを捨て、結婚の話を持ち出した自分に石田は悪びれる

様子もなく、当たり前のように打ち捨ててきた。




 この(あたり)になってくると好きだから結婚したいのか、意地で

結婚したいのか百合子はだんだん自分の気持ちが分からなくなっていた。



 好意を拒絶されても、拒絶される前と同じ熱量で相手を好きでいられる人間が

一体どれほどいるだろうか。





 この日、百合子の中にある石田への気持ち、好意が、憎しみを伴うように

なった瞬間でもあった。





 ただの浮気だったのなら、早い段階で打ち捨ててくれればよかったのに。




 本気で付き合っていたのは自分の方だけだったのだと分かってしまい

辛かった。


 そして分かってもいた。




 ただのはずみで自分たちの関係が始まったということ。



 自分の方が最初から彼に対して積極的に出たこともよぉ~く分かっている。



 だが3年近く付き合ううちに、もしかしてという気持ちが

芽生えてしまったのだ。







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