114 (最終回)115 と併せて
114 (最終回)115 と併せて
それで話に聞いていた飲み屋に行ってみることにした。
飲み屋と聞いていた店はあきらかに女性が接客するキャバクラにしか
見えなかった。
酒を作ったり運んだりする仕事だとばかり思っていた早瀬は吃驚した。
休日に会った百合子の面影はなくそのことにも早瀬は愕然とする。
顔はキツイ化粧で別人のように見える。
シースルーで胸元を大きく開けたブラウスを纏い、色気たっぷりの女を
演出していた。
早瀬が店で飲もうと席に座り酒がテーブルに置かれた頃、
百合子はある客から 熱心に口説かれているところだった。
その男は気軽に百合子の手を握り締めていた。
その様子を見ていて早瀬はカッとなった。
気がつくと自分でも訳の分からない行動に出ていた。
「それ、うちの女房なんだよ。気安くさわるんじゃない」
そう言うと百合子の手を引いて店から連れ出した。
百合子は客とママにごめんなさいと手を合わせて、そのまま早瀬に連れられて
店を出た。
手を強く引っ張られ辿り着いたのはセンター街の近くにある広場だった。
そこで立ち止まり早瀬が振り向いた。
「百合子、あんなところ止めちまえ!」
「えっ、えっ、だけどあそこ折角見つけたのよ。
止めたら生活できないのよ。
事務員の正社員は倍率が高くてなかなか採用されないし、パートだけじゃ
とても食べていけないのそれに……」
話を続けようとしたのにそれ以上百合子は続けられなかった。
早瀬に強く抱き締められたからだ。
「俺のところに来いよ。
もちろん孫は見せてやるけど、ジジババに百合子のことは干渉
させないから。息子と三人で暮らそう」
「早瀬くん、それって……」
「結婚しよう、俺と」
「いいの? 私でいいの?」
「百合子がいい。けどもしこの先俺を欺くようなことをしたら殺す」
「怖すぎるよぉ~、早瀬くん。
早瀬くんって学生時代からやさしい人だったのに……」
「百合子のせいだ」
「そうだね。ごめんね早瀬くん」
早瀬に求婚され抱き締められたままの百合子の眦からは
涙がとめどなく零れ落ちた。