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◇早瀬の色恋


 週末に外で会うことにした。


 早瀬は何度か利用したことのあるカフェを指定し、少し早めに行って

出入り口に近いテーブル席に腰を下ろした。



 揉めること必至な時は去り際が肝心なのだ。


 支払いは置いてすぐに出られるよう、千円札を2枚と5千円札を1枚

そして1万円札を1枚用意してきた。



 飲み物だけなら2千円をテーブルに置いて帰ろうと算段していた。

 何か食事をして額が大きくなりそうなら、そのままレジに行こうと。



 そのようにいろいろとこの後起こりうるあまりよろしくないことを想像して 

 待っているとしばらくして待ち人が顔を見せた。



「早瀬さ~ん、しばらくぶり。

 ぜんぜんっ会えないんだもん、淋しかったぁ~」


「そっか……」


「あっ、なにその薄い反応~淋しいなぁ~」


 オーダーした飲み物がテーブルの上に乗るとすぐに話題は

俺たちの結婚の話になった。



「お式はいつ頃がいいかな? 

 私ね、ウエディングドレスと白無垢も着たいんだ。

 一生に一度のことだしね。どう思う?」



「芽衣子、俺、結婚はしない」



「えっ、えっ、どういうこと。今になって」


「俺は芽衣子の希望を聞いてきただけで結婚の意志は一度も表明してないよ」



「えっと、じゃあそれは……結婚しないっていうのは今はしないっていうこと? 

もっと仕事が落ち着いてからがいいってことなの?」



「俺もあれから考えたけど、芽衣子との結婚はこの先もない」


「どうして……養子の話が駄目ってこと?」


「そうだな、最初はそれがネックだったような気もするけど。

 それよりも俺の方の事情が大きく変わったってことかな。

 俺もつい最近まで知らされてなくて驚いてるんだけど、実は息子がいたんだ」



「なんで? なんでよ」


「そりゃあ、昔やることヤッたからでしょ」


「他人事みたいに、なんなのそれ。

 私そんな女と息子なんて蹴散らしてやるわ」



「芽衣子ちゃん、怖いこと言うねぇ~。

 俺の息子だからね、頼むよ~」



「酷いよ、早瀬さん。

 結婚すると思ってこっちはいろいろと段取りしてたのに」



「芽衣子の気持ちはわかるけど、俺はプロポーズはしてないし、

結婚の話にも同意は一切してない。話を聞いてただけだ」



「酷いっ、馬鹿男。死ねっ……」



「すまないね、じゃあ馬鹿男は退場しますわ。それじゃ」


 まっ、付き合った最後がこれじゃあ、誰でも怒るよな。



 俺は即時席を立ち千円札を2枚置いて退場した。



 この時ほど、転職しておいて良かったと思わないことはなかった。


 俺は心の中でもう一度彼女に詫びた。

『芽衣子、ほんとにごめん』




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