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「実は今日お邪魔したのは少しだけど返金したくてね。

 笑われそうだけど30000円入ってる」


そう言って百子は伸之から封筒を手渡された。


 


「こんなに早く? 

 まだまだいろいろと揃えたりするのにたいへんでしょ。

 急がなくてもいいのに」



 「いや、仕事もアルバイトのようなものだが決まったし、少しずつで

申し訳ないけど仕事が続けられる間は返していくよ」



「ありがとう。

 そしたら毎月ここに来るのも大変だと思うので私の口座番号を

渡しておきますね」


 そう言って百子は口座番号をメモする為奥の部屋に置いてあるポーチ

を取りに行った。


「そっか、助かるよ」


 そして百子は通帳をポーチから取り出しながら伸之に向けて話し掛けた。


「淳平は小学生の時にあなたと別れたきりだったからアレかしら、

今日はあなたと一言も話ししなかったのかしら」



「いや、ちゃんと話してくれたよ。

 あの小さな子が立派になったかと思うとうれしいよ。百子ありがとう」



「えーっ、恥ずかしいけど……どういたしまして。

 誰に似たのか淳平やさしい子だから、ってあれね、やっぱり私に

似たのかな、なんてね」


「うん、君に似てやさしい子だよ」


「そう? ならよかった」




 なんとなくだけど、この時百子は伸之が来訪してしばらく3人で話を

していた時とはガラリと雰囲気が変わったように思えるのだった。


 しばらく席をはずしていた百子には理由を知りようもなかったのだが。

 元気がなさげに見えるけれど気のせいかもしれないと思ったり。



 返金できるところまできた元夫の姿を今日見ることができ、そのことは

心から良かったと思えた。

 そしてそのように思える自分でよかったとそうしみじみ思った。


 元夫の伸之は百子が口座番号を書いたメモを渡すと『ぼちぼちお暇するよ』

と言い、玄関に向かった。





          ◇ ◇ ◇



 百子は悲しい時期に無心に小説を書き、それが漫画として世に出、

おまけに恋人まで手に入れたというのだ。



 一生懸命に生きた人に幸運が舞い降りたという訳だ。

 伸之は少し残念に思いはしたが悪くはないと思った。


 自分が不幸にした人間がこれから幸福になってゆくのだ。

 素直に祝福したいと思った。





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