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半兵衛の息子【竹中左京謎解き帖】  作者: ワナリ
第五話『傷心旅行イン菩提山』

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【07】『囲碁勝負』


 菩提山入りの翌日、左京は早朝から矢足(やたり)と膝を突き合わせて、唐入りの動員について話し合っていた。


「二百ですか……」


 矢足も予想を上回る動員数に、難しい顔をしている。


「長政が足りない分は補ってくれるというが、黒田の動員数も尋常じゃない。だからなんとか竹中だけで二百をまかなえないだろうか?」


 財政にうとい左京にとって、頼みの綱は矢足だけである。

 とはいえ当初の見込みを五十人も上回る動員は、至難の業である事は左京にも分かっていた。


「ここは傭兵しかありませんな――」


「傭兵か……」


 矢足の見解に、左京は苦い顔になる。


 元来、傭兵というものは金で雇われた存在であり、忠誠心などは持ち合わせていないので、旗色が悪くなればすぐに逃走する。

 左京も小牧・長久手や小田原征伐で、そんな傭兵部隊が無様に壊滅する姿を見てきたので、その印象はけっして良いものではなかった。


「まあ、あと三ヶ月ありますので、なんとか良い者を雇える様に善処いたします」


「…………。すまん」


 ここは贅沢を言っている場合ではないと反省した左京は、家老である矢足に頭を下げる。


 人選をすべて矢足に委ねるという事もあるが、それを雇うのもけっしてタダではないのだ。

 そのための費用を捻出するのも、やはり矢足であり、当主でありながらその点無力な左京は、この先代からの家老に心から頭が下がる思いだった。


「ハハッ。何を今さら――」


 矢足が軽口をたたくのも、主を気負わせないための心遣いである事を、左京は分かっている。

 だから左京もここは明るく、


「そうだな――。ではよろしく頼む」


 と言う事で、この忠臣の思いに応える事にした。

 その直後、


「ふわー、おはよう左京」


 と、淀殿が眠たげな目で広間に入ってきた。

 やはり女人には昨日の強行軍はこたえたらしく、そろそろ昼に近付く今時分まで眠りこけていたらしい。


 ちょうど唐入りの相談もひと段落したので、左京は淀殿の相手をしてやる。


「もうすぐ昼ですよ。で、朝餉は食べますか?」


「うむ。食べる。食べるぞ」


 淀殿は爛々と目を輝かせる。

 左京にとっては意外だったが、淀殿はけっこう食い意地が張っている。

 昨日の夕餉も、空腹という事もあっただろうが、貴人に似合わず左京たちと同じ量をたいらげていた。


 そして膳が運ばれてくると、淀殿は満面の笑みになる。

 特に豪華な食材がある訳でもない。一応、武家の膳ではあるが、五千石という石高に見合った普通の朝餉であった。


「山国ゆえ、何もおもてなしができず申し訳ありませぬ」


「いやいや、そんな事はないぞ。京では山海の珍味が毎日出てくるが、(わらわ)はこういった普通の膳の方が好みじゃ」


 矢足の陳謝に、淀殿は無作法に箸を持ったまま手を振る。

 その言葉が嘘でない証拠に、出された料理がみるみると消えていった。


「いやー、うまかったー。夕餉も楽しみじゃなー」


 朝餉の直後に夕餉の話をする淀殿に、左京は内心ドン引きする。矢足も淀殿に見えない様に、クスクスと苦笑していた。


「おや――、ずいぶん見事な碁盤じゃな」


 腹が満たされると好奇心が動き出すのか、淀殿は床の間に飾られている、大ぶりな碁盤を目ざとく見つける。


「ああ、あれですか――」


 矢足はそう言うと、隻腕ながら片腕だけで軽々と、重い碁盤を淀殿の前まで持ってきてやった。


「おお、本(かや)じゃな。しかも無垢木ではないか」


 淀殿は碁盤の美麗さに、目を輝かせる。

 それにしても碁盤の材質、そしてその品質まで淀殿が見抜いた事に、左京と矢足は驚いた。


(やはりこの人は貴人なのか――)


 左京も矢足も、淀殿を見直してしまう。


「で、これは左京のものなのか?」


「いいえ、違います。これは父上のものです」


「なんと! これは、かの竹中半兵衛のものだったのか」


 半兵衛の名が出てきた事に、淀殿はさらに目を輝かせる。


「先代は囲碁がお好きでしたからな――。それはもう達人のごとき腕前でしたぞ」


「おお! この碁盤には竹中半兵衛の軍略が宿っておるのか」


 矢足の説明に、淀殿は勝手に盛り上がっていく。


「よし左京、一局打とうぞ。半兵衛の息子の手並み、妾が確かめてくれようぞ」


「えー……」


 左京は本心から面倒くさそうな顔をするが、当然その程度で淀殿が引き下がる訳がない。


「ほれほれ、早う座れ。矢足、碁石を持って参れ」


 こうして左京と淀殿の対局が始まった。


 まずは先手後手を決めるために、目上の者である淀殿が白石を無造作に握り、盤上に手のひらで覆い隠す。

 その数を左京が、奇数だと思えば黒石を一つ盤上に置き、偶数だと思えば二つ置く。


 左京が置いた黒石は二つ――。淀殿が手を開くと白石は三つあった。

 左京が数を外した事により、先手は淀殿となった。


「フッフッフッ。妾に先手を許すとは、そなたも不幸よのう。妾は囲碁にはかなりの自信があるのだぞ」


 不敵に笑う淀殿が、盤上の右上隅の『星』に一手目の黒石を打ち込む。大口を叩く割には、なんの変哲もない王道の打ち筋であった。


 続けて左京が左上隅の『星』に白石を打ち込む――かと思いきや、なんと白石はいきなり淀殿が打った黒石の近辺に打ち込まれた。


「なっ⁉︎」


 淀殿が血相を変える。

 なぜなら囲碁とは陣取りゲームである。なので序盤に陣地を広げるための布石を打つ事が肝要なのに――、左京の打ち筋は『攻撃』とは真逆の、いわば『迎撃』であったのだ。


「…………⁉︎」


 淀殿は動揺して、次の一手を打ち込めない。

 この展開に、幼き頃から左京を知る矢足はニヤリと笑った。


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