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7話

よろしくお願いします。

 山田先生との一泊二日の旅行に帰って来てからの仕事はいつも以上に疲れた。山田先生は私の事を下の名前で呼ぶようになり、周囲の評判になった。


「理恵子さんと山田先生って付き合ってるんですか。」


「違います。」


私は山田先生のゼミの女の子に言った。


「でも、山田先生近頃すごく上機嫌なんです。惚気話を嬉しそうにしてるし、八つ当たりもしなくなったんです。それに土日、お泊まりしたそうじゃないですか。」


山田先生は土日の事をかなり盛って学生達に話しているようで、結婚式の式場探しやら両親の挨拶の日程を話し合うとまで言っていた。同僚達もこの様子に驚いてはいたが、私を茶化すようになった。


「あのネックレスも山田先生からのプレゼントだったんですよね。あれ、でも、理恵子さん今日はネックレスしてないんですね。」


「実は、無くしちゃったんだ。どこを探しても見つからなくて。」


私はお気に入りだったネックレスの事を思い出してセンチメンタルになりながら言った。


 それから私は山田先生のゼミの子達だけでなく、文学部の子からも同じような事を言われて精神的に疲れてしまった。


「お疲れ様でした。」


私はタイムカードを押して事務所を出るといつぞやのふるふわ女子と山田先生ガチ勢の女子が数人私を取り囲んだ。


「えっと、どうしたのかな。」


彼女達は普段から私の事を目の敵にしているので見覚えがあった。だが、彼女らが集団で来るなんて初めての事で何があったと身構える。


「山田先生と別れて下さい。」


「は?」


私はこの瞬間、何が起きたか嫌というほど理解した。彼女達は案の定、私が山田先生に相応しくないから始まり、ブスだとか年増とか何気に傷付く言葉の数々を繰り出す。


「そもそも、山田先生のいる大学で働いているなんて本当に気持ち悪い。まじでストーカーじゃん。」


「逆だよ。私の勤める大学に山田先生が来たんだって。」


私は思わず自分が山田先生の追っかけで言い寄った風に言われた事にカチンと来て言い返す。


「ともかく、山田先生と別れて下さい。山田先生には若くて綺麗で知的な人でないと相応しくありません。」


「付き合ってないよ。」


私は必死でヒートアップした彼女達には私の声は届かないようで罵声を浴びせて来る。若い事は認めるが、これが知的で綺麗な女性のすることかと思いながら聞き流す。


「もう帰っていい?」


断らなかった私にも非はあるが、ここまで言われる筋合いはない。彼女達が満足するのなら、山田先生の目の前で付き合っていないと明言するのが効果的だろう。明日にでも山田先生のゼミに行って誤解を解こうと考えていると今最も会いたくないロマンスグレーの頭がズカズカとやって来た。


「何をしている。」


「や、山田先生。」


山田先生の登場で私にここぞとばかりに罵詈雑言を浴びせていた彼女達がおののく。


「山田先生、いい加減にして下さい。先生のおかげで変な噂が立っているんです。」


「変な噂とはなんだ。私は嘘など言っていない。」


山田先生は私の言葉を聞く気などはなっからないと言わんばかりに言った。


「お前ら私の理恵子に何をしていた。」


「何をって。」


私を罵っていた威勢はどこへ行ったのだろうか。彼女達は騒ぎ出してこの事態の責任を押し付け始める。


「この際だから言っておく。私は理恵子以外の女に興味はない。そもそも学生に下心を抱くなんてある訳ないだろ。」


山田先生はそう言うと私の腕を掴むと事務所へ出て行ってしまった。


 その後も、山田先生の噂は広まるばかりで私の肩身は日に日に狭くなる一方だった。彼女らも私が1人の時、尚且つ人気のない場所にいる時を見計らいなじった。多少の事では動じない自信のあった私であるが、精神的にきてしまい体調を崩してしまった。


「理恵子、大丈夫?」


母は顔色の悪い私に言った。


「良くない。」


私はそれだけ答えると幾分か前にお世話になった病院へ向かった。


 病院の内科の診察室に入ると若いお兄さんが私の担当になった。


「今日は院長先生が出張で出ていますので、私が担当させて頂きます。」


「お願いします。」


私は今の病状と新たな環境の変化を事細かに先生に話した。


「それは大変でしたね。」


「本当に参りました。」


「井ノ原さんは先日も過労で入院されていましたよね。まだ体が本調子でない事も含めた体調不良の原因かもしれませんね。」


先生はパソコンでカタカタ打つと私の方を見た。


「薬の方を処方しますので、しっかりと療養をして下さい。」


先生はそう言うと処方箋を渡して診察を終えた。


 


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