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23話

よろしくお願いします。

 家に帰ると母は私と私を送って来た節さんを盛大に出迎えた。


「節ちゃん、うちのバカ娘をありがとね。」


「こちらこそ、とても楽しい時間を過ごせました。」


節さんは私の腰を出して恥ずかしそうに言った。


「先生にも今日挨拶に行ったのよ。先生、お仏壇に手を合わせて泣いてたんだから。」


「来月顔合わせをしようと思うのでまたご連絡しますね。」


節さんは買ってきたお土産を母に渡すと家に帰って行った。


「良かったわね。安心したわ。」


「やめてよ。私は節さんと結婚しないよ。」


「婚姻届も出したっていうのに何言ってるのよ。和也も色々言っていたけど、節さんなら間違い無いんだから。」


母はそう言うともらったお土産を開いてお茶を淹れた。


 来月、私はこの状況を打破する事叶わず高級ホテルの一室で顔合わせをしていた。私となんとも言えない表情の父を除いた3人で盛り上がり、しまいには子供の名前まで出てくる始末だ。


「新居はもう建て始めていて、半年後に完成する予定です。」


「随分気が早いのね。」


「この子ったら、思い立ったらすぐ行動しちゃうのよ。りえちゃんの為に早く作らないとって意気込んでるんだから。」


先生は困ったという割にとても楽しそうに言った。


「近いうちにりえちゃんと式場を見に行こうと思っています。もういくつか候補も決めてて明日行ってこようかと思っています。」


「明日?」


「早いのに越した事ないでしょ。そうしないとりえちゃんが取られちゃう。」


「取られないわよ。こんな行き遅れ。節ちゃん、行っておくけどクーリングオフなしだからね。」


「それを言うのはこっちの方よ。節は主人に似て気難しいし、変なところもあるの。50近いのにもろくに誰かと付き合った事もないから、理恵子ちゃんに苦労かけちゃう事もあるけどよろしくね。」


頭が痛くなってくる。反論しようにも何も出来ない。仏頂面な父はぎこちない様子であるものの将来の息子になる予定の節さんと話しているし、私の居場所はどこへやら。


「節が何かやらかしたらすぐに言ってね。例えば出された料理に文句言ったら引っ叩きに行くから。」


「りえちゃんの作ったものなら何でも食べる。」


節さんは先生の言葉に不機嫌になって答える。


「男は出されたものに文句を言っちゃいけない。むしろ、感謝しないとな。」


「あんたがそれをいうの。」


私を除いた4人はとても打ち解けて楽しそうである。


「ちょっとお手洗い行ってきます。」


「僕も行く。」


「節、あなたは男なんだから一緒に行けないでしょ。」


「それを言うならりえちゃんのバッグもいらないでしょ。外に出る訳でもないし。」


先生に引き止められながら節さんは私の手に持つバックを指差す。


「トイレ行くだけなら置いて行って。」


私はとても用心深い節さんの言葉に従い、バッグを椅子の上に置いて個室から出た。


 相変わらずトイレを口実に逃げる以外に方法を考えなくてはと考えながら廊下を歩いているとクリーム色のジャケットに身を包んだ素敵なおじ様に遭遇してしまった。


「りっちゃん、偶然だね。」


安藤先生は笑って私に言った。


「こんにちは。」


「元気ないようだけどどうしたの?」


「まぁ、色々と。」


私はお3人方に引き留められて個室に残る節さんが帰りが遅いとヒステリックを起こして来ないかどうかビクビクしながら言った。


「嫌な事があるなら、僕と一緒に逃避行しない?」


「逃避行?」


「そう、行こっか。」


安藤先生は私の有無を聞く事なく手を掴むと走り出した。安藤先生は歳の割に体力があるらしく、私を引いてズンズンと進んで行く。


「何だか、結婚式で花嫁を掻っ攫う主人公みたいで楽しいな。」


「先生、離して下さい。」


「戻っても何にも解決しないよ。それよりも行動を起こす事が大切だよ。」


先生の言っている事は最もであるが、私の現状を知っているかのような口ぶりには違和感がある。


「りっちゃんは僕がたくさん幸せにしてあげるね。あんな自己中男と一緒にいたらりっちゃん、壊れちゃう。」


安藤先生はホテルの外に出ると高級外車が連なる駐車場に連れて来た。


「どこに連れて行くつもりですか。」


「前に言ったでしょ。今のりっちゃんには気分転換が必要なんだ。って言うわけで、僕の別荘に行くよ。」


安藤先生はメタリックなジャガーを先端につけた車のドアを開ける。


「りっちゃんの部屋も準備してあるし、僕の友達もいっぱいりっちゃんを待ってるんだ。きっと気にいると思う。」


「行きません。帰ります。」


「そんな事させないよ。事情は分かってる。江口節に勝手に婚姻届を出された事も全部知ってる。君の周りの男は碌なのがいないじゃない。大丈夫、僕はそんな奴らと違う。ちゃんと、りっちゃんを大切にして愛してあげる。だからね、行くよ。」


安藤先生はなんとも言えない凄みがあり、私は言われるがまま車に押し込められた。

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