19話
よろしくお願いします。
家に帰りいつの間にやら私の部屋に用意された女優かとツッコミたくなるくらい巨大なクローゼットに買った服や靴を和也おじさんさ綺麗に仕舞うと買って来たケーキでティーパーティーの準備を始める。私も何もしないのもあれだと思い、自前の服に着替えて手伝うと庭でお茶を飲んだ。
「もう脱いでしまったのですか。」
「あんな服恥ずかしくって着てられません。」
「そうですか。」
おじさんは何故だか知らないが、私のロリータをえらくお気に召していたようで自分の想像以上にがっかりしていた。
「理恵子さんの携帯も解約するのを忘れていましたね。」
「解約?」
「ええ、着信拒否していても何が起こるか分かりません。私の名義で携帯も買い直して心機一転させましょう。」
和也おじさんはそう言うと自分のスマホを出した。
「せっかくですし、お揃いの機種にしましょう。それでしたら私も使い方を教えられますし。」
「そんなにする必要はないです。」
「油断して何かあってからでは遅いのですよ。いいですか、これは理恵子さんの為に言っているのです。」
和也おじさんは強めの口調で言うとテーブルを握り拳で叩く。
「姉もあの江口さんの事を信頼しているようで何をされるか分かったものではありません。私は理恵子さんがとても心配なのです。」
「でも、流石に携帯解約するのはやり過ぎです。それに、おじさんの名義なんて。」
「私の言う事を聞きなさい。あなたは2度も危ない目にあっているのですよ。その自覚を持ちなさい。」
私はとてもではないが、おじさんの剣幕に対抗する事が出来ずに首を縦に振った。
「分かればいいのです。今日の夕飯はビーフシチューですので楽しみにしてて下さいね。」
おじさんは私が言う事を聞くと穏やかさを取り戻して紅茶を淹れ直した。
流されっぱなしの私だが、このままではまずい。夕食の間おじさんは私にとんでもな提案をしてきたのだ。なんと私がおじさんの養子となり、全ての縁を切って解決させるというのだ。
「そうすれば、江口さんやあの大学教授も理恵子さんに手を出せないでしょう。」
おじさんは我ながらいい考えだと自賛していたが、聞いているこっちは冗談じゃない。そもそも、どうしてそんな話になった?私はこのおじさんに恐ろしさを感じてとにかく逃げる事にした。
「お世話になりました。」
私は財布に入っていた少しばかりのお金を置いて家を出ると大急ぎでバス停へと向かった。
幸いにも最終便に乗れた私はどこへ行くべきかと考えながら数日振りにスマホの電源を付けた。仲の良い友人はいくらかいるのでそこに事情を話してご厄介なるかと考えていると再びうっかりで節さんの着信履歴を押してしまう。急いで消そうとするも時すでに遅さで、相手が出た。
「今どこにいる?」
節は地獄の閻魔様かと思うくらいご立腹で私は大急ぎで電話を切る。しかし、節さんの着信は続いたのでスマホの電源を切り窓の外を見る。真っ暗な住宅街はどこか不気味でこのままきさらず駅にでも連れて行かれそうな気がした。目を閉じて駅に着くのを待っているとバスが停車する。目を開けると乗り込んで来た人物に度肝を抜いた。ロマンスグレーの髪は乱れていても決して見間違える事はない。
「ようやく見つけたぞ。」
山田先生は掠れた声で私を見て言った。
山田先生は私の隣に座ると私の手を握ると充血した目で睨む。
「何故、いなくなったのだ。」
山田先生は私に縋り付くように運転手以外誰もいない車内で言った。
「理恵子がいなくなって怖かった。何かあったのではないかと心配していた。」
「どうしてここが。」
山田先生はスマホをジャケットから取り出して地図を出す。
「お前のスマホに位置情報アプリを入れておいたのだ。」
「犯罪ですよ。警察呼びます。」
「お前がそんな事言える立場か。私というものがありながらあんなへんちくりんなもやし男と気色悪い変態野郎に誑かされておいて。お前は私の妻だろう他の男に目移りするなんて許さない。」
山田先生は私の唇にキスをすると舌を中に入れ始める。引き剥がそうとするものの窓に押し付けられてされるがままである。
「こんな所で先に進むなんて全くナンセンスだ。駅前のホテルに行って続きをするぞ。」
山田先生の息は野獣のように荒く私の体をこわばらせた。
「逃げようだなんて思うなよ。お前は私の弟子であり私のものだ。私はもう決してお前を手放さないぞ、リリア。」
デジャブだった。このおっさんはハイド先生だ。この様子からあの事を気にしているみたいだ。
「お前の逃げ足の良さと口車が達者のはよく知っている。私はもう騙されないぞ。」
山田先生は私に死刑宣告でもするように私に言った。




