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16話

よろしくお願いします。

 京都市役所に着くと節さんは真っ直ぐ戸籍の部署に行き、バッグから一枚の紙を出した。


「用意しておいて良かった。ちゃんとりえちゃんの場所も書いてあるから心配しないで。」


節さんは全ての欄を記入し終えた婚姻届を見せて言った。


「やめて下さい。」


私は節さんから婚姻届を取り上げて阻止しようとしていると背広を着た60代位の男の人が数人の取り巻きを抱えて現れた。


「江口先生じゃありませんか。どうされましたか。」


「佐々木市長、こんにちは。」


「先生、昨日の事で急ではあるのですがお伺いしたい事がありましてよろしいでしょうか。」


「今からですか。」


「昨夜、市庁舎の件で職員の方から別意見がありまして擦り合わせをしたいのです。」


市長は申し訳なさそうな節さんに言うと周りの人も頭を下げる。


「分かりました。一度、滞在しているホテルに戻って資料を持って来てもよろしいですか。連れもいるので。」


「もちろんです。2時間後、お待ちしてます。」


市長は深々と頭を下げて言った。


 私を連れてホテルへ逆戻りした節さんは荷物をまとめ始める。


「全くりえちゃんとの時間を台無しにされた。」


節さんは悪態をつきながらパソコンをバッグに仕舞うと私の頭を撫でた。


「りえちゃん、夕方には帰ってくるからここでいい子にしててね。外に出ちゃダメだからね。」


「分かりました。」


「もしここから出たら僕、りえちゃんに何かするか分からないから覚えといてね。夜は予約している場所があるから迎えに来る。楽しみにしてて。」


節さんは私の唇にキスをすると部屋から出て行った。


 節さんの出て行った部屋の中で私は1人ため息をついた。最初こそ抵抗していたものの、節さんが激怒して無理矢理私をねじ伏せた。怒った節さんは私が知る何よりも怖く私の気力を奪った。


「今出ないと出られなくなるよね。でも、節さんに捕まったら。」


私が悶々としていたが、勇気を振り絞り荷物をまとめると部屋を出てホテルの前のタクシーに乗り込んで京都駅に向かった。


 タクシーの中で私はこのまま家へ帰り、母に節さんの事をどう説明すればいいか頭を悩ませる。母は節さんの事をえらく気に入っており、何を言おうと分かってくれなさそうだ。そうすると私の非難場所はかなり限られてくる。


「和也おじさんに頼んでみようかな。」


スマホを出して和也おじさんにメッセージを打っていると節さんからのメッセージが届く。節さんのメッセージなんて怖くて見てられないので見なかった事にするとスマホをしまうとタクシーから出た。


 東京行きの新幹線に乗ると和也おじさんからメッセージが来ており、名古屋駅に迎えに来てくれる事になった。私は安堵の息をついて車内販売のコーヒーを買うと一口飲んだ。

 

 名古屋駅着くと指定された場所でおじさんを待っていると白塗りのクラウンが私の前で止まる。私は助手席に乗り込むと来てくれた和也おじさんに頭を下げた。


「忙しいのにありがとうございます。」


「気にしないで下さい。理恵子さんの為ならなんて事ありません。それよりも大丈夫ですか。」


「あんまり、だいじょばないです。」


スマホは節さんからか山田先生からか分からないが着信の鳴り止まず電源を切っていたが、今でも鳴っているような錯覚を覚える。


「家に着いたら、ゆっくりお風呂に入って休みましょう。」


「ありがとうございます。」


私はこれで一安心だと座席に寄りかかり、目を閉じた。


 和也おじさんの家は名古屋の郊外にある一軒家だ。職業は作家でかなりの売れっ子である。性格も母の兄弟であるのにあんまり似ておらず、サバサバした母とは違い大人しく物静かだ。


「理恵子さんが私の家に来てくれるなんて何年振りでしょう。不本意ながらとても嬉しく思ってしまいます。」


和也おじさんは家に着くとお湯を沸かしてくれてお茶を淹れてもてなしてくれた。


「理恵子さんからの連絡を受けた時非常に肝を冷やしました。詳しく聞かせてもらえますか。」


私は和也おじさんに洗いざらい話した。


「そんな事があったのですか。」


「私も拒否していれば良かったんです。でも、どうしようもなくて。」


「そういう人間は何を言おうと決して無駄なものです。それよりもよくここまで耐えられましたね。」


和也おじさんは私の頭を撫でると優しく微笑んだ。


「事態が落ち着くまで私の家にいたらどうですか?」


「それじゃ、おじさんの迷惑になるのではないですか。」


「迷惑だなんて、私は理恵子さんが大切なのです。理恵子さんの脅威がある以上、家に帰るのも危険でしょう。姉の方には私が上手い具合に言っておくので安心して下さい。」


和也おじさんは私に元気付けるように言うとお湯が沸いたので私をお風呂に案内した。


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