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13話

よろしくお願いします。

 節さんに連れて来てもらったレストランは祇園の路地に入った場所にあった。隠れ家的なその場所はこれまで来たどんなレストランよりもおしゃれで私なんかが来ていいものか戸惑いを隠せない。


「ここね、僕がリノベーションしたんだ。」


「そうなんですね。」


私は節さんの美的センスに包まれた空間に居心地が悪くなる。


「あの、節さん。私、本当にこんな素敵な場所に連れて来てもらって良かったんですか?」


「いや、あの。節さん、恋人がいるのに悪いというか誤解を生むんじゃないかと。」


「そんなのいた事ないよ。」


節さんは私がずっと引っかかって仕方のなかった疑問をあっさりと切り捨てた。


「言っておくけど、女性と関係を持った事はないよ。」


「でも、彼氏は。」


「いないよ。僕、ゲイじゃないし。」


節さんはお冷を飲むと何事もなかったかのように私を見る。


「どうしてそんな事聞くの?」


「節さん、かっこいいし最前線で活躍する建築家さんだからお付き合いがあるのかなと思いまして、不快な思いをさせてしまったのならすいませんでした。」


私は昔馴染みとは言え節さんのプライベートに踏み込んでしまい申し訳なくなってしまう。よくよく考えてみたら、そういう店だの使うのに必要だろうし本当に悪い事をしてしまった。


「気にしないで。母からよく言われるし、話も出る。りえちゃんの場合、しつこく言ってこないから全然大丈夫。」


「もう言いません。」


「そう言うりえちゃんはいないの?そういう人?」


「いませんよ、いる訳ないじゃないですか。母からよく嫁に行けと言われてます。」


私は家に帰ったらしつこく節さんについて言われそうだなと思いながら言った。


「そうだよね。うん、良かった。」


「何が良かったですか?」


「りえちゃんも僕と同じだったから。」


節さんは私にドリンクのメニューを見せてくれる。


「何飲む?地酒もあるよ。」


「節さんに合わせます。」


「日本酒にしようかな。辛口、大丈夫。」


「全然大丈夫です。」


私は酒が飲めるとテンションを上がり食い気味に節さんに言った。


 食事は完全なコース料理で一品一品が食べる現代アート作品だった。私はおしゃれ女子からエセセレブ女子になり、最高級の伊勢海老のグリルを口に入れた。


「りえちゃんって、お酒好きだったんだね。」


「もう大好きですよ。愛してます。」


「言い過ぎ。でも、りえちゃんと酒飲めるの嬉しい。」


節さんは新しく注文した鴨川の雫みたいな地酒を飲んで言った。


「節さんもお酒強いんですね。意外です。」


「そう?僕はりえちゃんが酒豪なのに驚いてる。だってもう、僕ら5本も開けてるよ。」


節さんはちびちびとビールを飲み始めた私に言った。


「りえちゃんとはそれなりに会っているつもりだけど、知らない事ばかりだ。僕、もっとりえちゃんの事知りたい。」


「いっぱい知ってください。私も節さんの事知りたいです。」


「嬉しい。次は何飲む?おすすめのジンがあるんだけど、それにする?」


「お願いします。」


もはや私には気取る余裕なんてなかった。完全な飲兵衛と成り果てて、ありったけの酒をかっくらった。


 芸能人御用達の暖簾が掛かっていそうなこのレストランで私は品よくでなく、欲望のまま酒とフルコースを腹に収めて節さんと店を出た。


「ワイン3本も開けるとは思わなかった。」


「とっても、美味しかったです。」


「僕もりえちゃんとたくさん酒が飲めて良かった。」


節さんは若干ふらついた私の腰に手を回して支える。


「ホテルまでタクシーに乗ろうか。気持ち悪いとか大丈夫?」


「大、丈夫でふ。」


「コンビニで水を買ってから乗った方が良さそうだね。」


そう言うと節さんは私を連れてコンビニで水を買い、道でタクシーを拾って乗り込んだ。


 京都で飲んだ酒は私が今まで飲んだ酒よりも強く、悪質であった。確かに調子こいてしこたま飲んだのは認めるが、記憶が飛ぶような事はない。私の記憶はタクシーに乗り込んだ所で止まっており、それ以降白紙である。なので私はこの状況に悲鳴を上げざるを得ないのだ。


「どうしたの?」


私を胸に抱く上半身何も着ていない颯さんが目を開ける。


「一体、何があったんですか?」


「何って?」


「どうして私、節さんと一緒のベッドで寝てるんですか。それにこの姿。」


私は下着一枚で着ていた服は床に投げられていた。何か酔っ払って変な事してしまったのか頭が痛くなる。


「りえちゃん、ホテル着いたらすぐ寝ちゃったんだ。服のままだと寝ずらいかなと思って下着だけにしたんだ。」


節さんは私を胸に押し当てて目を閉じてしまう。


「まだ早いし、寝てよ。せっかくの旅行なんだし。」


そう言うと節さんは寝息を立てて混乱する私を残して夢の中へ旅立った。

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