12話
よろしくお願いします。
先生の話は一向に終わる事なく、頼んだカレーが来ても延々を話し続けていた。
「ハネムーンは再来年あたりでもいいだろうか。来年からは引っ越しだの何かと手続きでごたつくだろう。」
山田先生は前々から話が来ていた母校での教授職になるようで今の大学を離れるのだという。
「理恵子がいないのなら、今の大学に未練はない。それに理恵子がいてくれるならどこでも構わないが、東京には理恵子と私を引き裂こうとする連中がいくらかいるからな。」
山田先生の放つ言葉はもはや妄言としか言いようがないくらい言っている事が意味が分からなかった。私を狙う人なんてこの世に存在するとは思えない。ここは医者を紹介して治療してもらわなくてはいけないのではと考えていると山田先生のスマホが震え出した。
「悪いな、少し席を離れる。」
山田先生はそう言うとスマホ持って店の外に出てしまった。私も山田先生に気付かれないように外に出ようとすると店主に呼び止められた。
「裏口を使われますか。」
店主は私達のやり取りを一部始終見ていたようでわたしに裏口を案内してくれた。
「ありがとうございます。」
私は店主に何度も頭を下げると急いで店を出て約束した祇園へと足を進めた。
祇園に着いたのはまだ4時過ぎだったので、私は仕切り直しで和カフェに入り抹茶パフェを食べながら優雅に時間を過ごす事にした。
窓からは鴨川が見えてさながらおしゃれ女子顔負けの風景だと自画自賛する。だが、おしゃれ女子というのは映えというものを意識している生き物だと私は知っている。そして、私はおばさんなのでSNSのSの字すら理解していない。なので、私は撮った写真を家族と和也おじさんに送って反応を楽しんでいると和也おじさんから返信が来た。
『とても美味しそうですね。』
和也おじさんは可愛いわんこのスタンプを添えてメッセージを返して来た。
『あと、上賀茂神社と三十三間堂に行きました!これで少しは運気アップです!』
『理恵子さんが楽しそうで何よりです。体調を崩した時はとても心配でしたが、良くなっているようで安心しました。』
和也おじさんには退職の時や前回倒れた時にかなり心配をかけてしまっていた。子供の時から私を自分の事以上に気にかけてくれていて、母の話だと倒れた時に付きっきりで看病すると言ってくれていたのだという。
『近々、そちらに行きますので一緒にショッピングにでも行きましょう!あと、私の家でもたぬきが出ました。」
和也おじさんはたぬきの親子の写真をあげてくれた。
『可愛いですね。』
『とても愛らしく思わず撮ってしまいました。理恵子さん、知っていますか。たぬきは番を生涯1人しか作らないそうです。』
『たぬきって、とても一途なんですね。』
『そうですね。私もこのたぬきの家族を見ていてとても羨ましくなりました。』
おじさんは他のたぬきの写真を送ってくれたので、私は一層癒されてあっという間に約束の時間近くになってしまった。
指定された橋の前で待っていると目の前に止まったタクシーから節さん出て来た。
「待たせちゃってごめんね。」
「いえいえ、お仕事お疲れ様です。」
「レストラン予約してるから行こうか。」
節さんは私の隣に立つと私の歩幅に合わせて歩き出した。
節さんはレストランに向かう道中私に色んな事を聞いて来た。最近ハマっている事、好きなもの、趣味等私を質問攻めにする。
「昼間はどこに行ってたの?」
「上賀茂神社と三十三間堂に行った後、節さんの設計した図書館が見たくて京都大学に行きました。」
「僕があそこの図書館設計したの知ってたんだ、それでどうだった?」
「実は広すぎて何処にあるか分からなくってそのまま祇園まで歩いて来ちゃいました。」
私はとてもではないが山田先生の事を話さないのでそこを伏せて言った。
「奥まった場所にあるからね。りえちゃん建築好き?」
「好きですよ。写真でしか見た事ないですけど、上野の西洋美術館とか外観かっこいいなって思います。」
「なるほどね。あの建物はよく出来てるよ。何度も行ってる。」
節さんは建築の話になるとどこか楽しそうに言った。
「京都にもたくさんいい建築があるんだ。りえちゃんと明日一緒に見て回るのも悪くないね。」
「節さんのイチオシはどこですか。」
「僕は京都市立図書館と国立京都国際会館かな。あそこはすごい。」
「図書館ですか。」
「平安神宮の方にあるんだけど、明日行ってみる?向かいの京セラ美術館もかっこいい建物だよ。」
節さんは目を輝かせて言った。私も節さんのそんな姿を見ると楽しくなってしまい、「是非」と答えた。




