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11話

よろしくお願いします。

 突然現れた山田先生は私の向かいの席に座ると顔の青い私の頬に触れた。


「突然の体調不良で退職したと聞いたが、大丈夫なのか。」


「はい。もうすっかり元気です。」


私は山田先生に提携文を話すように言った。


「お前が京都にいるとは驚いた。メッセージを随分送ったが、どうして何も見ていない?」


「すいません、忘れてました。」


「無事ならいい。お前1人か?」


「そうです。」


「大学内でお前の姿を見て年甲斐もなく追いかけてしまった。今日はここの教授に急用が出来て仕事が中断になってしまったから、私も久しぶりに飲むか。」


山田先生は慣れた様子でコーヒーを注文するとおしぼりで手を拭った。


 山田先生は1週間の間、特別授業と合同研究の為にやって来たのだという。私に連絡したのも私を連れて行こうとしていた為だというので、ここに私がいる事に上機嫌になっている。


「理恵子、お前のホテルはどこだ?」


「分かりません。連れが全部手配してくれたので。」


「連れがいるのか?」


「はい、仕事があるみたいで夜まで別行動です。」


私は変に取り繕うのもめんどくさくなり山田先生に言った。


「お前の荷物はもうホテルの方にあるのか?」


「そうです。」


「ならばその連れに連絡してホテルから荷物を回収して私のホテルに行くぞ。」


「え?」


私は思考停止寸前の頭で山田先生に返した。


「元々理恵子と来る予定でちゃんと2人分の部屋にしてあるのだ。気にする事はない。出張ではあるものの、あと2日で講義が終わる。他の用事もさっき言った通り教授の急用で無くなってしまったのでな、ゆっくり観光出来るぞ。」


「どうして、私が山田先生と一緒にいる話になっているんですか。」


「私は少しでも理恵子と一緒にいたい。私達は一晩、同じベッドの上で過ごした仲だろう?」


山田先生はやって来たコーヒーをブラックのまま口に付けて言った。


「言いにくいのであれば、私の方からその連れに話をしてやる。スマホを貸せ。」


「やめて下さい。」


私はスマホをバッグの中に仕舞い込むと立ち上がって店を出ようとする。


「どこに行くつもりだ。」


「別に先生には関係ありません。」


「私はお前の恋人だぞ。何故、他のやつを優先する。」


山田先生はとんでもない爆弾を私にクリティカルヒットさせた。


「私が理恵子を必要としている事を理解出来ない訳ではないだろう。」


「私、先生と付き合っていません。」


「同じベッドで私の体に触れて理恵子は何にも思わなかったのか。私達は一晩だけの関係で終わる間柄ではない筈だ。」


「誤解を生むような事を言わないで下さい。小田原だって先生が勝手に私を連れ回した事から始まってるじゃないですか?」


「楽しくなかった訳でないだろう。私の金であんなに食べて寝たのだから。」


私もそこまで言われるとぐうの音も出なかった。確かに山田先生の言う通り、私もオーベルジュや他の食事が楽しくって浮かれていた節がある。それを考えると山田先生を責めるにはあまりにも材料不足でこうなったのも自分に非があるとしか思えなかった。


「心配しなくても何もしやしない。理恵子との初夜は結婚式の後と決めているのだ。その間はお互いの事を知り、絆を深め合う期間だと私は考えている。私はこの旅行で理恵子を一層深く愛したい。」


「本当に私も悪かった思っています。でも、私に先生釣り合いません。先生には若くて教養のある女性がいいと思います。」


私は何時ぞや聞いたセリフをそっくりそのまま山田先生に返した。


「私はお前が運命の女だと確信している。私はお前以外の女と付き合う気もないし、墓に入りたいなんて思った事がない。私達は会うべくして会った運命なのだ。」


このおっさんマジでやばい、頭の中お花畑になってる。私はさっさと逃げないとと思うものの、山田先生は全く離そうとしてくれない。


「お前が大学にいたのも私を探していたからか?メッセージにここに出張に来ると書いてあったからな。ふふ、可愛いやつだ。」


「いや、違います。」


「そう照れるな。ここはコーヒーもいいがカレーもうまいんだ。昼は食べてないだろう、一緒に食べよう。」


山田先生は私を先に戻すと品の良さそうなマスターにカレーを2つ注文した。


 席に着くと山田先生は学生時代の事を語り出した。京都大学は母校で2年の時にイギリスに留学して主席を取った事、イギリスの大学で博士を取った事など聞いてもいない情報をつらつらと並べ出す。


「私の父も英文学者で生きていた頃はよくここで議論を交わし合ったものだ。」


「さいですか。」


「理恵子とここに来れて私は嬉しいよ。2人で色んな思い出を作ってこれからの宝物にしていきたい。」


山田先生は一方的に話を進めて行き、まるで古い青春小説の主人子が言うような言葉を恥ずかしがる事なく言い連ねて行った。

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