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10話

よろしくお願いします。

 昨日の事が頭から離れず節さんと乗る新幹線はどうしようもなく居心地悪く窓の景色ばかりを見てしまう。


「りえちゃんは京都久しぶり?」


「はい、高校の修学旅行ぶりです。」


私は声を裏返しながら節さんに答える。


「何かあった?」


「いえ、何にもないですよ。」


「京都着いたら夜まで別行動でもいい?打ち合わせが思ったより長引きそうなんだ。」


「大丈夫です。お仕事頑張って下さい。」


私は平常を意識しながら節さんに言った。


 新幹線は平日という事もあり、人がまばらでビジネスマンのような服装の人が割合多かった。私は買ったコーヒーを飲みながらスマホを出すと節さんが再び話しかけて来た。


「母から聞いたんだけど、職場でパワハラを受けて体調崩したって本当?」


「パワハラと言っていいか分かりませんが、大学の教授にこき使われて疲労が溜まっていたのは事実ですね。他にも色々ありすぎて。」


私は山田先生の事や今回退職せざるを得なくなった原因である女子大生達の事を伏せて節さんに言った。


「辛かったね。りえちゃん優しいから相手がつけ上がったんだろう。僕が教えている大学ならそいつをとっちめられたのに。」


「ご心配をおかけしてすいません。せっかく連れて来てもらったのに辛気臭い話になってしまって。」


「僕はりえちゃんが苦しんでいるなら力になりたいし、助けたい。また、こんな事になる前に僕に相談して。」


節さんは私の頭を撫でるとそっと微笑んだ。


 京都駅に着くと節さんは仕事の為に京都タワー口のタクシープールでタクシーに乗り込んで行った。残された私は特に予定を立てていなかったので、無難に清水寺でも行くかと考えていたら清水寺行きのバスのあまりの行列に絶句して諦めた。再び京都駅に戻るとふと小さい時に和也おじさんが連れて行ってくれた上賀茂神社に行きたいと思ったのでそっち向かう事にした。


 電車に乗り込むと私はスマホの通知を見てため息をついてしまう。山田先生から50件にも及ぶメッセージが届いており、画面を開く事に躊躇しながら新たなメッセージを見るとどきりとした。


「この人、京都いるの。」


内容を見ると出張で今日から1週間、京都にいるそうで私の心がざわつき出す。私は頭を切り替えると山田先生のラインを非表示にすると上賀茂神社の事を調べ出した。


 上賀茂神社に着くとゆっくりと境内を散策して今後の事をお参りした。


「早く体調を戻して仕事も見つかりますように。」


私は100円を賽銭箱に入れると目を閉じて名も知らない神様に頼んだ。そして、その足で社務所のおみくじを引くと大吉でご利益を一層感じてしまいテンションも久しぶりに上がり始める。


「次、どこ行こうかな。」


私は京都と観光で検索して出て来た三十三間堂に向かう為にバス停へ向かった。


 三十三間堂では横長の建物の中にある千体以上の仏様を拝んだ。たくさんの仏様の中には自分と似た顔の仏様があると言うが、私には誰も一緒に見えていたので、どの仏様にも平等に手を合わせて財布が許す限りお賽銭も入れておいた。


「これでご利益倍増かな。」


私はうんうんと頷きながら気分がいいのでスマホを出して次の観光地へ向けてバスに乗った。


 節さんとの約束は祇園だったので私は平安神宮を見た後、スマホを頼りに京都大学を通り祇園に向かう事にした。


 京都大学に入ると当然だが、若い学生さんがたくさんいて前職を思い出してしまう。


「頭のいい大学だろうと学生さんは学生さんなんだな。」


私は若い女子大生のグループの横を通りながら私を詰って来た子達と重ねてしまった。


 私が何故こんな縁もゆかりもない名門大学に来たかというと節さんが設計した図書館があるそうで外からでも見てみたくなったのだ。だが、若い無関係な学生さんを見るたび嫌だった思い出がフラッシュバックして気分を悪くし始めた。私はここで限界と見切り付けて大学の外に出ると向かいの喫茶店の奥に身を潜める事にした。


 頭の中では山田先生のガチ勢が私を知りもしないのに責め立てており、私の体を重くする。私は体が落ち着くまでここで休む事に決めてコーヒーを頼んだ。店内には私の他に客はおらず、聞いた事のないジャズが響く。入り口付近のカウンターからサイホンのコポコポというお湯が大きな泡の音が聞こえ、少しだが私も落ち着きを取り戻していった。


「お待たせいたしました。」


運ばれて来たコーヒーもとてもいい匂いでわずかだが、気持ちが和らいだ。一緒に運ばれた生クリームと砂糖をコーヒーに混ぜながら夜までの予定を考えていると店のドアが開く音が聞こえて来た。そして、中に入って来た人物は真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。私は目の前に止まった人物の姿を見て全ての考えが吹き飛んだ。


「こんな所で何をしている。」


現れた山田先生は不機嫌そうな顔付きで私を見下ろしていた。


 



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