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11、秘密の女子会

 街で聞きこみ調査をしようと、どうしてふつうに言えないのか。


 ううん、からかわれているとわかっていてまんまと赤くなってしまうから増長するんだ。またもや「酒飲み妖精(レッドノーズ)」と笑われて、悔しまぎれにクォーツの足を踏みつけてやろうとしたのも軽々かわされてしまった。


 その余裕な態度を、すこしでも崩してしまえないものか。


 やられっぱなしなんてまったく性に合わない。つんとすましたその鼻を指さして、「酒飲み妖精(レッドノーズ)!」と笑ってやりたい。


 わたしはその夜、誤解を深めることを承知のうえでネンネに事情を話して、『収穫祭クォルツくん♡オードリーどきどき大作戦(ネンネ命名)』を計画することになった。


「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい、少し冷静になったわ。あのね、頼ってくれるのはもちろん嬉しいけれど、わたし女ばっかりの家族だったし、小説の中の男の子のことしかわからないのよね。こういうのって、やっぱり彼氏持ちの子にも相談するべきじゃない?」


 ひとしきりピンク色の悲鳴をあげたあとで、ネンネはしごく真っ当な提案をした。


 ネンネはモテるけれど、こっそりモテるタイプで、ぐいぐいと彼女のもとに押しかける男の子はいない。彼女も「小説の男の子と比べちゃうと、ねぇ」とのことで、いつも女友達と一緒に行動している。クォルツの鼻がどうしたら赤くなるのか、わたしとネンネだけで考えるのはたしかに無茶かもしれない。


「彼氏持ちっていうと、リリアナ?」

「うん、わたしもリリアナしかしらない。となりの部屋だし、連れてきちゃう?」

「待って、なんて説明するの? まさか」

「もちろん『収穫祭クォルツくん♡オードリーどきどき大作戦』について話すわよ」

「……あのね、まったく信じてもらえていないみたいだけれど、もう一度言うわよ。わたしべつにクォーツのことなんて——」

「だ、だめ、それ以上は言わないで! 素直になれないヒロインお決まりのセリフすぎて、興奮してまた叫んじゃうから……っ!」


 ぜえはあと息を荒くしながら、真剣な面持ちでネンネが言う。目が血走っている。


「それに、いまさらよ」

「いまさら?」

「リリアナとメルヴィとは、『オードリーとクォルツくんを見守る会』の仲間だもの」

「はい?」


 しれっと言うけれど、同級生の女子はわたし、ネンネ、レディ、リリアナ、メルヴィ、エリカの六人しかいない。わけのわからない会に、すでにその半数が所属していたとは。


「収穫祭デートのことだって、遅かれ早かれ伝わるんだもの。ためらうことないわよ」


 他人事に言うが、伝えるのはネンネだ。

 花がこぼれるような笑顔の彼女を見ていると、気が抜けてしまって、ため息が漏れる。


 ……ひとまずいまは、クォーツをぎゃふんと言わせてやりたい気持ちのほうが勝った。


 それに、夜に女の子だけで集まって秘密の相談をすることにむしょうに心惹かれていた。なんだかんだ言って、ネンネだってきっと同じだ。わたしたちはお茶菓子になりそうなものをひっぱりだして、まだ消灯時間前だというのにこっそりと部屋を抜け出した。


 リリアナだけを呼ぶつもりが、彼女と同室のレディ、廊下で行きあったメルヴィとエリカまで加わって、結局四年女子の全員がわたしたちの部屋に勢ぞろいすることになった。


「いいこと、オードリー。男女の駆け引きには、意外性の罠が有効よ。気のおけない友人と思って油断しているところを、ぐっさり刺してやるの」リリアナ・ロドリアはこぶしを突き出しながら、物騒なアドバイスをした。


「リリアナ、わたしとクォーツは気のおけない友人ではないわ」

「すでに友達以上恋人未満ってこと……?」


 すぐに感極まって息を荒くするネンネと違って、リリアナは落ち着いていた。

 余裕のある態度で首を横にふったあとで、頬にこぼれた金髪を耳にかけながら続ける。


「気のおけない友人というのは、実際のあなたたちの関係じゃなくて、オードリー個人の印象を言っているの。自覚はないかもしれないけれど、あなたって壁がないのよ。無神経って意味じゃないのよ、ちゃんと相手の壁は尊重してる。でもあなた自身の壁は皆無だから、隙だらけで、簡単にどうにかできそうな感じがあるの。そういう意味で、良くも悪くも気のおけない友人なの。オードリーは」


 言われてみればたしかに、踏みこまれたくない部分というものが、とくに自分のなかには見つからない。仲良くないひとに突然抱きつかれたら嫌だろうけれど、リリアナの言っているのはそういうことではないのだろう。


「あー、わかるかも。ここにいるひとたちみんな初対面だったら、とりあえず真っ先に声かけたくなる感じある。オードリーちゃん」


 自分の部屋から持ってきたバタークッキーをもしゃもしゃ食べながら同意するのが、メルヴィ・ドクトルだ。咀嚼のたび肩の上で焦茶色の髪がふわふわと揺れる。リスみたいで愛らしい彼女こそ、声をかけやすそうだ。


「メルは甘ったるすぎる」


 ネンネのロマンス小説をぱらぱらとめくりながら、エリカ・ターナーが指摘する。彼女とわたしは赤毛仲間だけれど、いつでも反抗期なわたしの髪とちがって、彼女のそれは織物のようにまっすぐでうらやましい。


「ふわふわで可愛すぎて、女子っぽさが強いのよ。男子からしたら、とうてい『お友達』には見えないでしょ。ネンネと同じ」

「え、わたし?」


 きょとりとネンネは目を丸くしたが、なるほどこれもうなずける話だ。


 ふむふむと手帳にペンを走らせていたわたしは、ふと顔を上げる。


「わたし、女の子らしさがないのかしら」

「そんなことないわ。あなたってこう、守ってあげたくなるようなところがあるわよ」


 消灯時間が気になるのか、壁時計を気にしていたレディがはっとしたように加わった。


「えー、そう? オードリーに守ってあげたくなるような感じはなくない?」


 しかしエリカがばっさり切り捨てる。


 こればかりは自分では判断できないところなので、わたしはリリアナに視線を向ける。


「むしろ守ってくれそうね。さっきは友人と言ったけれど、どちらかというとネンネが好む小説のヒーローっぽいかもしれないわ」

「あっ、だからなのね! オードリーのことがこんなに好きな理由がわかったわ!」


 ネンネにぎゅっと抱きつかれた。

 彼女の愛用するポプリの香りが鼻をくすぐる。たぶんネンネは、わたしから紙やインクのにおいを感じただろう。


「女の子らしさとしてはどうかしらと思うけれど、そう言ってもらえるのはくすぐったくていい気分よ。でもわたしやっぱり、男の子をドキドキさせるなんて無理なのかも」

「いいえ、まさか。言ったでしょう、意外性が有効だって。オードリーみたいな子が、あなたのためだけに一生懸命おしゃれしたのよなんて甘えたら、大抵の男は致命傷よ。洋服は私のものを貸すわ。お化粧も教えるから、ちゃんとやりましょう。ヒーローにもヒロインにもなれる女の子なんて最強じゃない。クォルツ・フテルクを虜にしてやりましょう」

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