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切れ長の見ようによってはキツく感じる目と少し薄い唇が、もともと美人の顔立ちを一層近寄り難い存在にしていた。実際図書委員でも他の人と話しているところを見かけた事はなかった。たまに誰かが話しかけてもほとんど会話が続く事はなく、明らかにつまらなそうな顔をするものだからみんな次第に声をかけなくなってしまった。
「お前よく立澤と会話続くよな。」
誰かが呆れたように言った事がある。しかし僕たちの間で交わされているのは会話と言うようなものではないだろう。僕が一方的に文句、苦情、改善点を聞かされているだけなのだ。
しかも全て僕のせいじゃない事ばかりで。
でもなぜか言い返した事はなかった。それは彼女の迫力に気押されていたということもあるけど、何か文学に対する情熱や誠意のようなものを感じたからかもしれない。彼女は本当に文学が好きでこの図書室を良くしたいと思っている事がわかったような気がしたからだ。
「わかった、わかったよ。」
恐る恐る彼女の細い肩に触れて少し身体を離して忘れていた呼吸をする事ができた。
「立澤さんは本当に文学に詳しいんだね。君ならこの図書室に置くべき本をうまく選べると思うよ・・」
そう言い終わらないうちに彼女の右眉が少し上がり、せっかく取った距離をまた詰め寄ってきて言った。
「そりゃそうよ、だって図書委員の人たちって読んでるものと言えばラノベやら流行りのミステリーばっかりで三島由紀夫の名前さえ知らないのよ!それじゃあ、図書室の本が偏るのも無理ないわって思ったわ。別にラノベやミステリーが悪いって言ってるんじゃないの。ミステリーではコナン・ドイルや乱歩を出すまでもなく名作はたくさんあるし、ラノベでも文学少女はラノベと文学を融合させる事に成功していると思うの。でもその先に進んでない人が多すぎると思わない?しかも図書委員会なのによ!」
この間ずっと息を止めているわけにもいかず、僕は静かに呼吸をした。呼吸をしながら彼女のこの文学への情熱はどこからくるのだろうと不思議に思った。