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第5話 ヒーロー

「僕は昔話のヒーローになんてなれないよ」


5、6歳くらいに見える男の子、いや、かつての僕が祖父らしき人物、僕の知っているよりも少し顔にしわの少ないお爺ちゃんの膝の上で泣いていた。


「そんな弱気なうちじゃダメだぞ、テーラ。ヒーローはな、どんな絶望的な状況でも敵に立ち向かってこそだ。

確か、前に友達がいじめられてたのをみていじめっ子たちに立ち向かったんだよな?ヒーローのやることはそれと同じようなモンだ。

だから、お前は絶対にヒーローになれる。きっとわしは、お前がヒーローになる頃にはこの世に居ないかもしれん。あと10年儂が生きてれば、お前は絶対にヒーローになれる」

「ホント!?じゃあ、あと10年生きててね、おじいちゃん!」



それから8年と数か月、僕が冒険者になる許可が下ろされる1か月ほど前。

大好きだったお爺ちゃんは他界した。

遺書には、昔冒険者だった頃に集めたお宝を隠していたこと、それを売った金は僕に使うこと、僕にヒーローになってほしい旨が記されていた。


これは、お爺ちゃんが僕に与えてくれた試練かもしれない。

この結界の中に閉じ込められた、たった数十人にとってのヒーローになる為の、マナさんのヒーローになる旅路の第一歩としての試練。


錬金術師の人、ありがとう。

あなたのおかげで、僕はまだ戦える。勇者でも、ヒーローでもない僕に、わざわざ武器を作ってくれたあなたには、起きてからでいい。是非ともお礼をさせてほしい。


僕は魔法剣に集中しながら魔力を注ぎ始めた。僕らを援護した錬金術師の人に感化された数人の冒険者たちが、オークロードを足止めしている。


刃は紫色に発光し始めた。

まだまだ、魔力は注ぎ込める。僕の全力を出すんだ。

今度は、紫色の光は神々しい黄色の光に変わった。

もしかすると、剣が魔力に耐えきれないかもしれない。いや、あれだけの技術がある人が作ったんだ、そう脆くはないはずだ。

その時、リンが刃を握った。


「ちょっと、危ないよ」

「尽くせる策は尽くした方がいいと思ったので。私の魔力も注ぎますから、一撃で仕留めてくださいね」

「分かった」


リンの魔力も受け取った魔法剣は、青白い炎が燃え上がっていた。

これぞまさに、昔話で描かれていたような、憧れていたヒーローの姿。

この姿をマナさんにも見てもらいたかったような気はするけど、今はいい。

きっと、いつか強くなった姿を見てもらいたいから。


僕は足に残った僅かな魔力を込め、加速魔法を使ったように一瞬でオークの目の前まで走った。


「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!」


オークロードの首元に深く、深く剣は突き刺さった。

ダメだ、真のヒーローならここで首を切り落とせる。

諦めるな、ただ殺しただけじゃ他の誰とも変わりはしない。切り落とせ!


ふと、剣を握る僕の手に、温かいものが触れたように感じた。

お爺ちゃんが、一緒に剣を握ってくれているように感じた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


少しずつ、少しずつだが剣がオークロードの首の肉を、骨を斬っていっているように感じた。

そして、オークロードの首は宙を舞った。

僕は、その場に倒れ込んだ。



「おーい、<王様>さんよォ。俺の召喚したオークロードがられちまったよ。やっぱりあのマナと接触したヤツ、面白いぞ」

「そうかい、<修羅道>。我はまだ覚醒に3か月かかりそうだ。このまま順調にあの坊やを強くしつつ、時間を稼いでくれるかい?」

「ああ、やってやるさ。けど、他にも面白そうなヤツがいたからさ、もしも俺の召喚したモンスターがアイツを殺しちまっても文句だけは言うんじゃねェぞ」


そう言って笑った、<修羅道>と呼ばれた男は、灰色の肌と額の第3の目を持ち、溶岩のような微かに発光する赤い長髪を縛っていた。

それは、まさに化け物のようであった。



「テーラ、よくやった。これでお前はヒーローに1歩近づけたぞ」

「お爺ちゃん、僕はまだ弱い?」

「いや、お前は確かにあの結界にいた数十人の中で一番強いハートを持っている。だからそう心配するな。それに、恋する男は強いぞ」

「こ、恋!?急にどうしてそんな話に?別にリナさんやリンに対してはそんな感情…」

「その2人に対しては、だろ?お前はマナ・レゼトヴェートに恋してるんだ、気付け」

「そうなのかな…。まあ、お爺ちゃんが言うならそうなのかもね。とりあえず、今日は僕に力を貸してくれてありがとう」

「別に、可愛い孫の為だからな。それくらいのことは当たり前だよ。しかし、あまり儂を当てにしすぎるなよ。恋はお前がお前自身の力で叶えなきゃならん。だから力を貸せないことも出てくるだろう。その時は、自分の力でイレギュラーだろうと何だろうと撃破してやれ!」

「うん!」



夢で逢ったお爺ちゃんは、生きていた頃と変化は特になかったけど、久しぶりにその優しさに触れて、自分の弱さを実感した。

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