第4話 イレギュラーとの遭遇
〈宝剣の持物〉の本拠地にて
「報告です。何者かがダンジョンでマナと接触したようです」
「ほう、それはいい知らせだな。その何者が誰か特定できるか?」
「不可能ではありません。すぐにでも特定します」
パーティーの主の女は、思わず口角が上がった。
*
リナさんが作ってくれたおにぎりを食べ終わった僕とリンは、しばらく話していた。
「そういえばさ、僕に攻撃を仕掛けようとした時、どうやって僕の顔の真ん前に出てきたの?」
「サラマンダーには、稀に酸素の少しでもある場所へ自由に瞬間移動できるのがいるんです。まあ、稀なはずなのに私の幼馴染にあと2人いますが」
「へぇ。つまり、相手の吐いた息に含まれてる微量な酸素をめがけて瞬間移動すれば、相手に防がれるよりも前に攻撃できるわけか」
「そのはずなんですが…。サラマンダー以外に仕掛けて未然に防がれたのはテーラが初めてです」
「そうなの!?もしかして、あんまり他種族にサラマンダーの挨拶が回し蹴りだって知られてないのか?」
「そもそも、ここ数十年で私たちのような武闘派の族も減りましたから」
とりあえず、リンがすごいサラマンダーだということは分かった。
「それにしても、3階層は本当にいいところですね」
「聞けば14階層もいいところらしいよ。モンスターの発生が異様に少ないからホテルや商店街が展開されてリゾート地になってるって。まあ、14階層は行ったことないけど、21階層と32階層には行ったことあるよ。それで、32階層にあのマ…」
おっと、マナさんのことは他の人に言っちゃいけないな。リナさんはパーティーの主だったから例外として。
「21階層と32階層だけ行ったことがあるというのはつまり、2回も【抜け穴現象】の被害に遭ってるんですか?」
「う、うん。その度に<テレポート>が使える冒険者の人に3階層まで送ってもらったんだけどね」
その時、人の多く集まっている方がざわつき始めた。
「ん?何かあったみたいだけど」
「事件ですかね?いや、事件であってください!探偵の出番ならぜひ…!!」
「事件を喜ばないでください」
そんなことを言い合いながら僕とリンがそこに行くと、空気が張り詰めていた。
いや、あのマナさんのレッドドラゴンと会った時ほどは空気が張り詰めているように感じない。
ただ、何となく自分たちでは敵わない相手がそこにいるような気がしてたまらなかった。
そこには、オークロードがいた。
オークロード。冒険者ギルドの認定では推奨ランクC以上。到底敵う相手ではない。
どうして15階層前後でしか出現しないはずのコイツがここに?普通のオークも8階層くらいからしか出現しないのに。
オークロードは耳をつんざくような咆哮を放った。
ある者は気絶し、ある者は腰を抜かし、ある者は足を震わせ、ある者は苦しんでいた。
しかも、最悪なことにランクD以上の冒険者がいない状況で種族及び群れの長しか張ることのできない特殊な結界が張られていて、逃げだすことも外部からの助けを求めることもできない状態になっていた。
ここは、勇気を出して誰かが戦わなければ全員が死ぬ。そう直感した。
「リン、僕はコイツと戦う」
「えっ、正気ですか!?ここにいる全員が束になって戦っても数人生きて帰れるかどうかですよきっと」
「でも、戦って結界から脱出しないことにはいずれ全員殺されるか餓死する」
「それはそうですが…」
「それに、僕はあのマナ・レゼトヴェートさんに言われたんだ。『早くランクAになって迎えに来て』って」
「迎えに来てって、どこにですか?…ま、まさか求婚されてるんですか!?」
「それは分かんない。けど、僕には生きて帰る義務がある」
「はぁ…、仕方ないですね。私も協力しますよ」
「ありがとう、リン」
「その代わり、生きて帰れたら今夜は奢ってくださいね」
「了解」
俺とリンはグータッチを交わして、踏み出した。
*
オークロードは既に2人くらいの死体を貪っていた。
そこを背後からリンが鱗に炎を宿して尻尾から連射した。
オークロードの毛皮にその鱗が刺さり、表面が燃え出した。
「思ったよりはうまくいったけど、やっぱ聞いてた通り硬いな、コイツの毛皮も肉も」
「じゃあ、まずは一撃!」
僕は剣に魔力を宿し、その毛皮に剣を突き刺した。しかし刃は浅く刺さっただけだった。
それに気づいたオークロードが僕にパンチを繰り出してこようとしたが、リンが瞬間移動して僕を突き飛ばした。その時、僕の刺した傷口に爆発するポーションを数個投げつけたのが見えた。
激しい爆発が起き、砂埃が吹き荒れた。
「リン、大丈夫か!?」
「私は大丈夫です。それより、コイツに他の冒険者を食べさせないでください、それを糧にして強くなっています。コイツは何者か《・・・》によって召喚された改良型のオークロードです!」
「マジか…」
つまり、一刻でも早く倒さないとこちらが不利になるわけだ。
「っおし!お前ら、サンキューな!俺にも手伝わせてくれ!」
そう言って緑色の髪をした青年が僕たちの戦いを見守っていた民衆の中から出てきた。
青年は空中で何か手を動かしたかと思えば、手先から剣が出てきた。
錬金術師だ。
青年は剣を持っていない片手でその後も数本の剣を生成し、オークロードに向かって発射した。
それはもの凄い勢いでオークロードの体に突き刺さり、苦しませていた。
同じランクEなのか、それともランクDなのかは分からないけど、ランクBくらいの戦闘センスがあるように思えた。
が、青年の足元がフラつき始めた。
「クソ…、魔力が切れてきたか…。おい、そこの!俺が限界まで魔力使って特別な剣作ってやる」
青年は空中に魔法陣を展開し、そこから聖剣に見えるような剣を引き抜いた。
「コイツは、込めた魔力が倍増する魔法剣だ!ソレにお前の魔力を注いでアイツをぶった、斬って、くれ…。俺は寝る」
青年の体からは力が抜け、静かに寝息を立て始めた。
知らない人にここまでさせたんだ。僕は、これを使ってこのオークロードを倒す。