第3話 野良サラマンダーとの出会い
僕は少しフラフラな状態でリナさんの宿からダンジョンまでの道のりを歩んでいた。
僕がマナさんとのことをあまり上機嫌に話しすぎた所為か、色々悪戯されるわ、甘えられる(?)わでなかなか寝られなかった。
仕方ない。普段は使いたくないけど、裏路地を使って近道で行こう。
僕はレティシアの生まれじゃない。ここから十数キロ離れた場所にある特に呼び名もない、レティシア近郊の村で生まれ、育った。
そこではよく、レティシアの裏路地は悪者がたくさんいるから行かないように、と散々言われてきた。
が、冒険者たるもの、こうやってちょっとしたことで“冒険”してみても別に問題ないのではないかと思った。
と、考え事をして歩いていると、急に一瞬で顔の前に何者かが現れた。
僕は剣を腰の鞘から引き抜き、攻撃に備えた。
案の定、僕の顔の前で空中に現れた何者かは回し蹴りをしようとしていたらしく、構えていた剣で防ぐことに成功した。
「あれ?髪と目が赤いから同胞だと思ったのに…、ただの人間か」
「誰だ!?」
「ごめんなさい、珍しくここに誰か来たもんだから私の気配を追ってここに辿りついた同胞かと勘違いして…」
そこには、黒髪で紅い瞳の、黒い鱗と紅い溝があるドラゴンの尻尾らしきものをもった少女がいた。どうやらサラマンダーらしい。
「サラマンダーの挨拶って、本当に回し蹴りだったんだね」
「これはまあ、私の一族を含む武闘派のサラマンダーだけがやっているので、全員がそうとは限りませんよ」
「ところで、君は?僕はテーラ・セゼム。冒険者だ」
「私はリンデル・シーフォル。野良のサラマンダー」
「野良、っていうか、家出したんでしょ?」
「ギクッ!」
図星らしく、リンデルは気まずそうにしていた。こうなったら、勧誘するか。
「だったら、僕のパーティーのところに来る?実は、主人のリナさんは<水瓶の持物>を持ってる、というか大型パーティーを組む資格があるのにまだ僕が初めての加入者で、メンバーを募集してるんだ。一緒にどうかな」
「あいにく、誰かと群れるつもりはないです。でも、行く先が無いのもまた事実。今日1日は一緒に行動するから、その間に私がテーラを気に入れば加入します。とりあえず、私のことはリンと呼んでください」
「わかったよ、リン」
*
そして今日も、僕は3階層に来ていた。偶然にもリンもランクEだったから一緒に行動することになった。
「テーラ、向こうからコボルトの数匹の群れが来てますよ」
「了解!」
耳と目が人間よりも利くリンにモンスターを探してもらってそれを2人で狩る、という戦法で今日はいつも以上にモンスターを倒せている気がする。
僕は鞘から引き抜いた剣に魔力を込め、コボルトの群れに突っ込んだ。
3匹貫通し、激しく血しぶきが飛んだ。
低く唸ったり吠えたりする残党のコボルトはリンが鱗を飛ばす攻撃(!?)で狩っていた。
その後は、肉と毛皮、骨に分別してバックパックに詰め、いらない部分は埋葬した。
「今のところ順調ですね。本当にテーラと組むのも悪くないかもしれません」
「それはよかった。それと、もうそろそろお昼ご飯にしない?」
「何か持ってきているのか?」
「リナさんが作ったおにぎりだけど、よかったら食べる?」
「それなら、もらいます」
3階層は広大な面積の森林が広がっていて、木陰から差し込む天井からの日の光が心地良い。
「質問いい?そのリナって、1、2年前の21階層惨殺事件で重体を負って、ホムンクルス治療で一命を取り留めたリナ・ベーテロですか?」
「そうだけど。リナさんはあんまり知られてないって言ってたけどよく知ってるね」
「これでも私、一応は【探偵組織ウートフォスキャ】の一員です。その話について本人くらいしか知らないようなことでも知ってますよ」
「例えば?」
「実はあの事件、モンスターによるものとして処分されたけど実際は違う。<水瓶の持物>は、<弓矢の持物>に所属する<六道>の<修羅道>担当、レヴァ・デティーノに襲われたんだ」
「<六道>の<修羅道>に襲われた…!?」
「発端は<六道>の<人間道>担当、現<宝塔の持物>所属のミアナ・ロケルが一時的に<水瓶の持物>と手を組んだことがレヴァの気に障ったらしく、ミアナが行動を共にしなかった日を狙って襲ったらしい。
しかも、ミアナが精霊を生み出せるのに対して、<六道>の【三悪道】認定のレヴァはモンスターを生み出せる。きっと自分で殺した上で召喚したモンスターにも致命傷を負わせて、激戦があったことを装った。私たちの調べだと、リナ・ベーテロ本人が知らないこともある」
「例えば?」
「彼女は記憶喪失だ」
「…え?」
「もしかすると、リナ・ベーテロってのも本人が勝手に言っただけで本当の名前じゃない可能性もある。何しろ、彼女らは一族が水瓶を継承していたことをギルドに報告していなかったあまつさえ、戸籍まで未登録だったらしいからな」
「そうか。色々教えてくれてありがとうな」
「別に、お前の為に教えたわけじゃないからな」
やっぱり、リンは僕らのパーティーに必要かもしれない。