東京異界
黄昏時。昼の光が支配をやめ、夜の帳が降りる頃、二人の男女は向かい合っていた。
200キロメートル。
その距離を超えてなお、二人は互いの存在を認識しあっていた。
吸血鬼。
月並みな言葉で言ってしまえばその二人を形容するのにこれ以上ピッタリな言葉は無いだろう。
かくいう僕もその一人だった。
傍らの女性に跪き、視線を向ける。
「我らが女王陛下、相手はすでに1億を超えているでしょう」
我らがブラッドムーンの女王陛下、気高く優しく、そして時に無慈悲な彼女は笑う。
妙齢な容姿と相まって、太陽を溶かしたようだった。
「さすがは『独り百鬼夜行』その力は伊達じゃないわね。この戦いは命がけになる」
けれども、と彼女は区切る。
「私を誰だと思っているの?私だけが最強。私だけが一人、あなたたち最強最悪の『ブラッドムーン』を統べるリリアナ・ブラッドムーンよ」
「女王陛下……」
「なに?」
「自分のチームに自分の苗字をつけて恥ずかしくなかったんですか?」
「う、うっさいわよ!誰でもそういう時期とかあるでしょう!あんただって例外じゃないはずよ!自作のポエムとか設定資料集とか、思春期には珍しくない現象でしょうが!!」
ああ、我らが女王陛下は思春期だったのか。見た目からして二十代いっているはずなのに…………
半分遠い目をしながら視線を対岸の相手に戻す。にこやかな顔で手を振ってきた。
イラっとくる。
これから殺し合いをするとも思えない顔だ。
空を見上げる。完全に夜だった。ここは時間の流れも普通とは違う。
人はみなここを、畏敬をこめてこう呼ぶ。
「東京異界アガルタ……か」
僕の呟きは我らが女王陛下には届かず虚空へと流れていく。
女王陛下が背後の精鋭に対し手を上げる。
それだけで十分だった。殺気殺気殺気。その濃密さに思わずクラッとくる。
「始めましょう。私たちの戦いを」
手を振り下ろす。
いくつもの風が吹き荒れた。ここは東京異界アガルタ。吸血鬼の住む町。勝てば相手の全てを手に入れ負ければ全てを失う修羅の都。
そして我らが女王陛下はその日、見事に敗北なされた。
楽しんでくれたら幸いです。