後編
皆さま良いお年を!
「お咎め無し?」
「むしろそれが最大の罰、みたいな?」
私と向き合ってテーブルにあるお茶に手を伸ばす、私の護衛。
王国からはすでに帰国している。長居は無用、陛下から帰還用の魔法陣もらってたもんね。
後始末は残った皇太子殿下がしてるだろう。ブチブチ愚痴りながら。ぼっち嫌いだから、あの人。早く終わらせれば婚約者様が待ってるよ。帰ってこれないなら、私が甘えて遊んでもらおうっと。
王国のその後、存在そのものを皇帝陛下は拒否なさった。わかりやすく言うと「そんな利がない国なぞいらん」だそう。
なので、皇太子殿下は王国をそのまま残すために居残り。王国としては、帝国に吸収された方が良かったんだろう。楽だもんね。
こっちとしても、最初は国王を領主にして管理させる方向で調整が進んでたのに、愚王弟がめちゃくちゃにするからどうしようもなかったし。
もちろん、愚王弟にはこんこんと私の護衛が事実を教え込んだわ。どんな手を使ったかはわからないけど、きちんと理解させて心をボッキボキに折り砕いてすり潰しておいたと、とてもいい笑顔で報告されたよ。恐ー。
往復移動にお金を費やしただけになってしまったけど、小旅行と思えばそれなりに、に? いや、なんの楽しみもなかった気が、うん?
「どうかしたか?」
「いや、うん。あのね。私の周りって、血縁じゃない男は貴方しかいない気がするんだけど」
「そうだな」
「いやいや、皇族としてそれってどうなの」
「淑女の仮面被らなくて楽だろ」
「確かに」
えー、それでいいの?
「私について来るために、わざわざ護衛に扮してまで王国に行ったのは、なんでなのかしら、ねえ、婚約者殿?」
そう、私の婚約者。じゃなきゃタメ口なんて許されない。隣に立ってる時点で皇帝陛下に認められた存在なのだ。
皇后妃殿下の甥で、私が帝国に来た時に年が近いからと顔を合わせた。
そこからなんだかんだと今まで一緒で、いつの間にか婚約してたんだけど。てか、ほんとにいつの間に? 私王国に行く時初めて知ったんだけど。
銀髪に青い目の、陛下みたいなワイルド系イケメンに、え、ほんとにいつの間にこんなガチ好みに育ったの!?
「お前は陛下が初恋だって聞いたし、皇太子殿下と陛下を認めさせないとお前と婚姻させないと言われたからな」
「え、いつからよ?」
「初めて会った時から?」
「長っ!」
「そんな俺と殿下と陛下がいて、お前の目に他の男を置くと思うか?」
思わないな、うん。てか、いても眼中に入らない可能性大。
「婚姻衣装の希望出さないと、お前の母君と妃殿下と家の母が勝手に決めるぞ」
「あ、それは待って。いや、それはそれで私に似合うのができんじゃないの?」
「似合うのと着たいのは別だろ」
「確かに」
「行くぞ」
当たり前に差し出される手。
拒否感もなく乗せる自分の手。
そういうことなんだろうな。違和感なんて最初からなかった。
隣にいるのが当たり前で、猫を被ることなく素で話せる貴重な人。私を護る護衛で婚約者。
皇族だからとか、多分そんな肩書きが無くても、この人はこのままだったと思う。
「どうした?」
「ううん。帝国に来て良かったなぁって」
「あの国の王族の服のセンス、ないもんな」
「ないよねー、ガチないわー」
さぁ、行こう。
この先も、私が私らしく私であるために。
隣にあなたがいるなら、それは間違いなく叶う未来。
お身体に気をつけて!