前編
お久しぶりです。よろしくお願いします。
「お、おまえなんかとはこんやくもけっこんもしないからな! あそんでもやらないぞ!」
「ああ、はい。ぜひそうしてください。わたしがいやですし」
「「「え!?」」」
こんなこと言う奴と結婚なんか、こっちがお断りだ阿呆共め。
私が所謂転生者として前世を思い出したのは、三歳の頃だった。
父の甘やかしを受けてそれなりのワガママ娘を爆進していた私は、ワガママが過ぎてスっ転び頭を打って気絶という、流れるようなコンボを決めて熱を出して寝込んだ。
母の献身的な看護で復活した私は、まず母に謝ったね。なにせワガママで母の言うことなにも聞かなかったし。
「まことにもうしわけありましぇんでした」
……噛んだのは許してほしい。まだ三歳なんだよ舌が回らんのだよ。
「……なにか思うことがありましたか、ティナ?」
母は優しかった。今までだってちゃんと注意してくれていた。それを難しいこと言わないとか辛く当たるなとか言ってた父、ちょっと一回池に落ちて来い。
「ぜんせをおもいだしました。そしたらいままでのことがはずかしくなりました」
前世持ちは珍しくは無い。この世界には結構な頻度で現れるらしい。だからか、生活水準は前世の日本並みだ。有り難し。
「過去を振り返り反省したのなら、わたくしが言うことはありません。ティナ、これから頑張りましょう」
「はい、おかあさま」
ティナ・ダンガール、三歳。北の国の公爵家令嬢として、第二の人生の幕開けだった。
ことの起こりは私が五歳の時だった。
「ティナ、王宮に行こう!」
「え、いやです」
「え!?」
なんでそんなフラグ立ちそうなことせないかんの。
金髪碧眼の、なんかやたらとキラキラしい父は、あからさまにショックですな顔だが、銀髪紫眼の母の、美しいが冷たい視線に気づかない。
「王族と会えるんだよ?」
「おうぞくとちかづきたいとはおもいませんので」
「え!?」
なんでいちいち驚くんだよ、王族なんてめんどくさいことしかしないだろうが。ことうちの王族なんて腐りきった果実とまで他国に笑われてるのに。
「え、でもティナを連れていくって約束しちゃったんだよ?」
「わたくしのきょかをえていなかったやくそくはむこうではありませんの? かってなことをしたおとうさまがあやまったらいかが?」
「え!?」
だからなんで以下略。
「旦那様」
「だ、ダイナ。な、なんだい?」
「旦那様はティナとのお約束をお忘れですの?」
「約束?」
キョトンとした表情に、あかんこれダメなやつ、と母とため息をついた。
結局。会うだけだから、挨拶するだけだから、と母を説得した父に連れられて来たよ、王宮。
「ね、ねぇ、ティナ?」
「なんでしょう」
「やっぱり、今からでも着替えない? そのドレスも可愛いけど、もっと可愛いのがあるよね?」
チラチラこっちを窺いながら、父が聞いてくる。王宮で着替えろって?
「わたくしのお気に入りのドレスがどうかしまして?」
母の故郷の流行りを取り入れたドレスは、和洋折衷。母は昔の中華服や漢服みたいなのをアレンジしたドレスを好んで着てるので、私も自然とそっちが好きになった。
それを着替えろだと?
無表情に声だけを冷たくして聞き返すと、父はゴニョゴニョ言いながら視線を逸らした。まぁな、父はフリフリふわふわゴテゴテしたのが好きだから、気に入らんのだろうけど。
そもそも、拒否った場所になんで着飾って来なきゃなんないのさ、ありえなス。
沈黙のまま、着いた場所は王宮の奥。王族のプライベートスペースだそうだ。非公式の謁見とは聞いたけど、ならば記録には残らないのか。
不機嫌さを隠せない私でも、表情は取り繕わなければいけない。めんどー。
父の視線に頷いた、私の銀髪を纏めた簪がシャランと揺れた。
そして冒頭に戻るのさ。
小さな箱庭のテーブルセットにいたのは、この国の国王とその息子だった。
この国にあふれてる金髪碧眼、抜け目なさそうなタヌキオヤジ、というのが最初のイメージ。国王だもの、腹黒じゃなきゃやってられないよね。
でも、この国の王族が腐ってるって言われてるのは、この国王のせいだ。腹黒のくせに国政はさっぱりだなんて笑えない。
「やぁ! よく来てくれたね! ああ、ダイナ夫人にソックリだね!」
「……こくおうへいかにおかれましては、ごきげんうるわしゅうぞんじます」
カーテシーにてご挨拶した後は沈黙。さて、あとは帰るだけ。
「おとうさま、ではわたくしはこれで」
「え、ティナ!?」
回れ右して歩き出した私を、父が追いかけて来る。
「あいさつしましたわよ? やくそくはまもりましたでしょう?」
「ティナ嬢? こっちでお茶を飲もう。お菓子もあるよ?」
国王に誘われた。なんか胡散臭い笑顔で。
「いえ、けっこうです」
「ティナ!?」
やかましい、無能親父。
「待って、息子を紹介したいんだよ」
「おうじでんかにおあいするやくそくはいたしておりませんので。しつれいいたします」
「父上! こんな地味なやつとこんいんなどいやです!」
「ええ、わたくしもいやです」
「「「え?」」」
国王のコピーみたいなミニチュアが叫ぶ。王族としてのマナーがなっとらんな。私も人のこと言えないが。
「ひとのみためをけなしてはいけない、ということはわりと早めにおしえるべきでは?」
「な、なんだと!?」
「おうぞくとしてより、ひととしてありえません。しつれいいたします」
チョコリとカーテシーをして回れ右。
「ティナ!! これは決定事項なんだよ!?」
父の叫ぶ声に足を止めた。正確にはそのセリフの中身だけど。
「……なにが、けっていじこうだと?」
「ひっ」
5歳児の殺気に怯えんなよ情けない。
私はバルコニーへの窓を開けた。2階、いや3階か、高いな。
「ティナ!?」
よっこいせ、とバルコニーの手すりの上に立った私に、真っ青な顔で駆け寄ろうとする父。
それを手で制止して、髪から簪を引き抜く。暗器と呼ばれるこれは、魔力を流すと短剣になるものだ。母からのプレゼントである、素敵。
ちなみに父からは無駄にデカくて使い道のないぬいぐるみだった。ゴテゴテフリフリのドレス着たやつ。ぬいぐるみがかわいそうだからシンプルなのに着せ替えたったわ。
「ティナぁっ!?」
「うるさい」
その短剣を首に当てたら、悲鳴が上がった。女みたいだな、父よ。
「わたしはそこのあほうとこんやくなんかしない。かってにきめたちちにもしつぼうした。ちちのむすめだからがりゆうなら、こうしゃくけなんぞすててやるわ」
長い髪をつかんで短剣の刃を当てる。
「ティナぁぁぁ!!!!」
「お待ちなさい。その婚約は無効です」
髪を切り落とす前に、新たな声が響いた。
「お、王妃」
「王妃殿下、とだ、だだだだダイナ!?」
シンプルなドレスの女性と、我が母の登場である。
「旦那様は、ティナとの約束ばかりか、わたくしとの約束までお忘れでいらっしゃるのね」
ため息とともに零された言葉には、温度がなかった。母、ガチおこである。
「約束?」
「王妃よ、婚約が無効とはどういうことだ」
「そのままの意味でしてよ、陛下」
王妃様のついたため息は、母のより重かった。苦労してらっしゃる。
「ダイナ夫人に手を出すことは契約違反ですし、その子供を王家に取り入れようとした時点で、契約破棄ととられます。説明しましたでしょう」
問いかけでもないってことは、言っても無駄だと思ってだろうな。都合いい話しか聞かなそう。
てか、契約ってなんだ。
「ティナ、こちらへ」
「はーい」
手すりから飛び降りて、母の元に駆け寄る。父? 知らんな。
「わたくしを欲する国王陛下から、わたくしとわたくしの血を守るのが、旦那様のお役目でございましたわね。お忘れですの?」
「あ、いや。ダイナには手を出させないし、ティナは王子妃にな」
「王族との婚姻はしたくない、とティナのお願いに了承してらっしゃいましたわよね? それもお忘れ?」
「え? ……あ」
「あらまぁ、残念なおツムですこと」
そう、私はちゃんと父から、王族と婚姻はしないさせない、との確約を得ていた。子供との約束なんてと軽く考えた父、阿呆。
ガチで魔法契約したのに、破棄出来ると思ったのか? 私の方が魔力強いのに?
「なんにせよ、契約は破棄されました」
厳かに、母は宣言した。
「わたくしと旦那様の婚姻は無効。故にティナの婚約も無効です。さぁ、ティナ。帰りましょうか」
「はい、母さま」
「だだだだダイナ!? ちょっ、まっ!?」
「わたくしの名を呼ばないで頂けます、公爵様?」
ひらり、と母の手から紙切れが落ちた。
なにやら難しい図形が書かれたそれは、多分魔法陣。その図形が眩しい光を放つ。
「お迎え、嬉しゅうございますわ。お兄様」
光が消えたそこには、男性がひとり立っていた。
……誰やん?
続きます




