077 聖女が登場
すなわち、相手は相当の手慣れであることが予想できる。おれはリビングへ向かっていく。いざというときのために手のひらからスライムを発射できるようにしときながら。
「……。どういうことだ?」
だが、そこへいたのは敵ではなかった。なぜそう言い切れるのか。理由は単純。そこに転がる少女は血まみれで呼吸すら乱れているからだ。
「おい! 大丈夫か!?」
「──大丈夫で、す」
「そんなわけあるかよ! ほら、治療してやるから!」
おれは手にスライムをまとわせ、彼女の背中に塗りたくる。スライム娘のスライムはだいたいの場合、人間の傷口を修復するからだ。
「わ、たしにこんなことして、も無駄で、すよ」
「無駄かどうかはおれが決めるんだ! しっかりしろ!」
「わた、しはエンバ、シー。この国へはい、るとい、うた、い、罪を犯し、まし、た」
「大罪? なんでだよ?」
傷口はみるみるうちにふさがった。彼女の言語能力が破損していない限り、なにか命を賭してでもおれの家へ侵入してきた理由を語ってくれるはずだ。
「助かった……?」
「スライム娘のスライムは万能なんだよ。もう誰かが目の前で死ぬなんて嫌だしな」
「そうですか……。しかし私を治療したところで無駄ですよ?」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「私はエンバシーという名前の“聖女”だから」
「聖女?」
そんな頃、おれが敵との闘いに終始しているわけではないことを知ったのか、ミリットとタイーシャが現れた。おれの怪訝そうな表情を見て、ふたりも頭をかしげる。
「オマエら、聖女って知ってる?」
「知らないわけがない。小学校で習う分野だから」
「じゃあ説明してくれ、ミリー」
ミリットはやや訝るような表情で、「聖女はありとあらゆる国家に極稀に生まれる、強力な魔力と祈りによって祖国に加護をもたらす存在、って習ったけど」と説明してくれた。
「なるほど。とんでもねえのがうちに来たわけだ」
「んん? タイラーもしかして──」
「コイツ、聖女らしいぞ」
ミリットとタイーシャの表情がこわばる。しかしなにも知らないおれからすれば、聖女という概念がなにをもたらすかなんて想像もつかない世界だ。
「……。厄介事のるつぼ、アンタは」
「この子、消されるよ? タイラー」
不穏な単語が聞こえてきた。おれはタイーシャに、「なんで?」と訊く。
「だってロスト・エンジェルスは無神論国家だもん。神様の存在を国家として否定してるの。それなのにこの子は神様の存在を認めるどころか神様の力を借りちゃってる。でしょ? ミリットちゃん」
「そういうことになる」
おれは死刑宣告をされたエンバシーのほうを向く。彼女はまったく笑わず、ただそれが当たり前の話であるかのようにすました態度をとるだけだった。
「オマエ、殺されるのを分かってるのにロスト・エンジェルスへ来たのか?」
「……。神のためならば死すら喜んで受け入れるべきです」
彼女の手は震えていた。そんな言葉、本心なわけがない!!
おれはエンバシーをビンタして、怒号を飛ばす。
「死を喜んで受け入れるヤツなんていねえ!! くだらねえ嘘ついて自分を正当化するな!! 本心を言えよ!!」




