035 窮地は音もなく
HAAAAAAAAAAAAAA!? あの女、なに考えているんだ!? おれとアイツは完全に反目じゃねえか!! つーことはまた闘うんかい!?
そんなわけで時間外労働がやってきてしまった。クラリスがどの程度強いのか分からないが、単身で現れるとも思えないしスライム娘への対策も持っているはずだ。その対抗策をぶつけられたとき、おれは確実に終わる。紆余曲折あった異世界生活が、終わる。
「……小粋に連絡するかぁ」
そうだ。おれには小粋っていう粋なフレンズがいるではないか。アイツだったらなにかこの場を切り抜けられる方法を知っているはずだ! つーわけで電話をかける。
「もしもし、小粋? おれだが──」
『タイラー、おれァいま忙しいんだよ!! また後でな!!』
金属音が響き渡る。もうすでに誰かと交戦しているというのか? 厄介なんて次元じゃねえぞ……。
しかも通話を一方的に切られたんだが。こりゃ本格的に厄日だぜ、とおれは笑うしかなくなる。
「タイラントさんが笑ってる……」
「あのセーラム上級大将の孫娘をも倒す未来が視えているに違いない……。恐ろしい方だ……」
「おれ、タイラント勢力に鞍替えしようかな……」
うるせえ!! オマエらおれをなんだと思っているんだよ!? 毎回戦闘しているように思われているかもしれんけど、その度に死を覚悟しているんだからな!?
そんな不満も満足に言えない日本人であるおれの元へ、ふたりの少女とひとりのハーピーがやってきた。
「閣下!! なんとか無事でした!」
「危なかったよ、タイラー。隕石投げてきたヒトに文句言っといて」
「……。敵に文句言ったって無駄だろうに」
おれは美人人面鳥に敬礼して、「感謝するぞ、エコー」とカッコつけてみる。カッコつけてみるが、声が萌え声ってヤツだから威厳がまったく足りない。
「とんでもないです! わたくしはただ任務を全うしたまでで……」
「ロリコンなのに年上の美人秘書落とそうとしてる。不思議」
「ミリットちゃん、ロリコンってなに?」
「私たちみたいな中学生くらいの女の子が好きなヘンタイ」
なんでこんな毒舌なんですか? うちのミリットちゃんは。なにか気に触るようなことをしましたでしょうか?
「と、とにかくだな。エコー、スターリング工業に取り次いでくれ。我々はノーマッドの副総長と交戦状態に入る可能性が極めて高いと」
「……。分かりました」
タイーシャを除くふたりの表情が暗くなる。ある種当然だ。このふたりはきっと、クラリスの恐ろしさを知っているだろうから。
「こっちはすでに小粋が何者かと闘ってる。スターリング工業無しで窮地を切り抜けることはできんぞ……」
「窮地とはなにかしらね?」
金髪碧眼。160センチ程度の身長。こういうのでいいんだよと言いたくなるお人形さんのような愛くるしい顔立ち。白いスーツ。
そんなクラリスは西洋の剣を持っていた。おれにはそれが、生き血を啜って呼吸をしているようにしか見えなかった。
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