7.訓練の見学(前編)
長くなったので前・後編にわけました。
2の月に入り、治安維持部隊の本部へ見学に行く日になった。
もちろん父の許可はとってある。最初は父も同行しようとしていたが、侯爵である父がいるとダニエラさんも本当のことを話してくれなくなるかもしれないので、必死に押し留めたわ。
あと父が再三念押ししたのがいつもの髪型。令嬢らしく上品なワンピースだが長めの前髪とおろしたボブロング。俯きがちでいたら顔はほとんど見えないだろう。
男性ばかりの場所では少数の女性に視線が集まりがちなのは理解できるしわたしも目立ちたくないので、むしろ平常どおりにさせて頂きます。
今回は護衛のアンドリューとバーナードの、凛々しめ卵&テディコンビを伴って馬車で移動する。本部は王城のすぐ隣にある。本部入り口で名を告げ、ダニエラさんへの面会だと言えばすぐに案内の隊員の1人が先導してくれた。
通されたのは恐れ多くも総隊長室で、固辞も出来ないのでそのまま入室した。
「ようこそスプングリス侯爵令嬢。私は総隊長のアーノルド。フラーゲンクルト伯爵当主も務めているが、隊の者たちにはアーノルドと呼ばせているのでアーノルドと呼んでくれ。
本日は訓練の様子を見学に来られたと、ダニエラから聞いている。」
「初めてお目にかかります。スプングリス家のセイラと申します。どうぞサラとお呼び下さい、アーノルド様。
本日は見学の許可を頂きましてありがとうございます。」
総隊長は伯爵当主のうえ役職持ちなので侯爵令嬢のわたしよりも地位が高い。貴族令嬢の礼儀作法としてのカーテシーで挨拶をする。
それにしても総隊長、想像とちがって中背中肉のふつうの男性に見えた。お顔は体の大きさに反して小さく、鋭い目は中央に寄っていてとがった嘴のように黄色い口で鷲?鷹のように見える。眼光が鋭いけど実際の本人も同様に厳しいお方なのかしら?
「案内にこの者をつけるので、何かあれば彼に言いつけてくれ。
彼はオーウェン、若いが警ら隊の副隊長だ。子爵家の者でもあるから礼儀はそれなりに心得ている筈だ。」
「初めましてスプングリスご令嬢。オーウェンとお呼び下さい。
光栄にもこの度案内を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
アーノルド総隊長、もちろんしっかりとご案内して参りますよ。」
オーウェンさんは戦士と呼ぶにふさわしいほどしっかりした体格で、やる気がみなぎっているのか目に炎がともっている。若さと闘気がみなぎっているのだろうか?
思わず口元が緩んでしまった。本当に笑ってしまうから、わたしのこのポンコツな目は適当なお絵描き顔を見せるのをやめてほしい。
「初めましてオーウェン様。本日はお忙しい中案内役を引き受けてくださりありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。」
「普段はむさ苦しい男どもが多いですからね。麗しいご令嬢のお相手が出来て光栄です。
では早速ご令嬢と護衛の方々、参りましょう。こちらです。」
「はい、わかりました。
ではアーノルド様、御前失礼いたします。」
オーウェンさんは社交辞令に長けているようだ。
深々とお辞儀をして部屋をあとにした。
「訓練所に行く前に少し本部の中をご案内いたしますね。
治安維持部隊には警ら隊のほかに王城警備部隊、討伐隊、防衛隊があるのはご存じだと思いますが、本部には主に討伐隊と防衛隊が常時詰めています。警ら隊や王城警護部隊は外で職務をしておりますので当然なのですが。
ちなみに近衛隊は王族直下ですので、治安維持部隊には属していないんですよね。まぁこれもご存じでしょうけども。」
「いいえ、改めてご説明いただけてとても助かります。」
「ははは、やはり女性を相手にすると説明のし甲斐がありますね。」
失礼ではないけれど、ちょっと軽い態度の人かも。
「訓練はそれぞれの隊で行うことも合同で行うことも、体術のみ剣技のみ、対人戦、団体戦などいろいろあります。
捜査官には女性も幾人かおりますが、女性といえども一般市民の男性を相手にすることもあるので、女性も合同で行っております。ただし、公認霊能力捜査官に限っては週に一度の体術のみになります。彼らの場合は神殿での講習もありますから。」
「公認霊能力捜査官でも体術の訓練は必要なんですね?」
「そうですね、霊能力を使った捜査が主とはいえ巡回に出ればそれなりに体技が必要になる場面もありますので。」
「そう、なんですね…」
何となく頭では理解していたが、実際に体技が必須だと明言されるとショックを受けた。
危険かどうかばかりに着目していたが、やはり自衛としても体術は必須なのね…
その後、警ら隊、王城警備部隊、討伐隊、防衛隊、運営事務室、食堂などを簡単に案内してもらい、本日の目的であるダニエラさんの訓練を見るために第二訓練場へとやって来た。
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