5.卒業後の行く末
※サブタイトルを変更しました
異母兄の発言のあと一瞬沈黙が流れ、父が口を開いた。
「グレッグ、お前の言うことは至極もっともで、私も同意見だ。クリスタもサラも年頃だからそろそろ積極的に茶会や夜会に参加することには賛成だ。
ところで、サラは霊能力をもっと訓練して公認資格をとりたいと考えているようだ。もちろん危ない任務などには携わらせるつもりはないが、せっかくの霊能力を国のために役立てたいという心意気はかっている。なのでサラにはまず神学を学ばせようと思っている。
サラ、話し合いの場を設ける前にここで話すことになってしまったが、どうだろうか?それでよいかい?」
「ええ、お父様。ご配慮いただきましてありがとうございます。」
「クリスタはグレッグとともに、今年から茶会や夜会に積極的に参加するとよいだろう。こちらでもいくつか選出しておこう。必要なものはパトリシアと相談して準備するといい。
パトリシア、よいな。頼む。」
「はい、旦那様。心得ております。」
「お父様!ドレスやアクセサリーを新調してもいいということですか?」
父が頷くとクリスタはわあっとはしゃいでお礼を言った。
クリスタには存分に社交会で活躍してもらいたい。こちらに話が振られないように。
それはともかく、父はこないだの約束を守ってくれたようだ。よかった!
捜査官として働くことはまだ許されていないが、公認資格をとるために最高学府に通えることが嬉しい。何よりも、今はまだ結婚相手を探さなくてよいことにも義母と異母姉とともに茶会に参加しないですんだことにもほっとした。
この国で結婚適齢期と言われているのは18~22歳であるから、とりあえず3年ほどはうるさく言われないだろう。先延ばしになっただけとも言えるけど。
たっぷりとデザートまで堪能したあとは、アルマとともに別館の自室へと戻った。
デイドレスからゆったりとした部屋着に着替えて、ソファの上でだらしなく凭れる。わたしを訪ねてくる者などいないのでよいだろう。何よりも精神的に疲れた。
「サラ様、新年初日の会食はいかがでしたか?」
「本館のシェフはやっぱり最高よ。どれもすごく美味しかったの。」
「…サラ様、わざとですね?わかっててとぼけていらっしゃいますね?」
「アルマ、ごめん。やっと解放されて怠けたかったのよ。本当にお腹もいっぱいだしね。」
くすくすとお互い笑いあった。
「異母兄がクリスタとわたしにも社交界に出て結婚相手を探したらどうか?なんて父に進言するものだから、少し焦ったわ。
でも父はちゃんと公認資格を取りたいって意向を考えてくださっていて。来年から最高学府で神学を学べそうよ。とりあえず社交界活動から遠ざかれそうでほっとしたわ。」
「それはよかったですね、サラ様。ガブリエル様のような女性神官長を目指したらいかがですか?わたしも捜査官になるよりも危険がないと思います。」
「神官になるには家名を捨てないといけなかったかしら?確かに表向きは貴族籍から離籍することはできるけれど、なんだかんだと家とは繋がっているのよね。
うーん。悪霊を祓うことができるようになれて平民として暮らせるのが一番いいのだけど。」
「サラ様は幼いころに悪霊に危ない目にあったのですよね。」
「そう、危ない目にも何度かあったのと、その時のにたーっとした笑みがとても苛立たせるのよ。一般的には美形って言われる顔であるのだろうけれど、わたしには悪霊の特徴でしかないわ。」
幼少の頃、わたしは3度ほど危ない目に遭った。私が貴族の子だったからこそ周りに人がいたことでひやりとするだけで済んだのだ。
一度目は寒い冬に庭にある池に落ちた。悪霊が池のそばで手招きしていてためだ。風邪を引いたがこじらせて肺炎になることなく済んで幸いだった。
二度目は高い所から落ちそうになった。これも悪霊と追いかけっこをして遊んでいたらいつの間にかバルコニーから乗り出していたのだ。周りにいたメイドがすぐに私を止めてくれたから落ちずにすんだ。
三度目は門の外に出ようとしていただけだった。これだけなら危険はなさそうだが、もし門の外に一人で出ることができていたら小さな子供は馬車に轢かれていたか、誘拐されていただろう。
この後、父が問題視して大神官さまに屋敷全体に結界をはってもらったので、悪霊を屋敷内で見ることがなくなり危ない目には遭わなくなった。そしてわたしにだけ見えるものは死霊なのだと教えられた。
そこで悪霊が美形に見えているのはわたしだけだともわかったが。解せぬ。
悪霊は知性が高く、言葉巧みに誘い入れるのだ。
亡くなったばかりで彷徨っている死霊が悪霊にそそのかされて地縛霊になったり、家に棲みつき始めたり呪いの念を残したりしたら大変だ。生きている人間がその被害を受けることになる。
戦争が盛んだった昔には悪霊が集まって、ある村に疫病をはびこらせ大地を不毛の地に変えたこともあるらしい。
百害あって一利なし!悪霊即滅!
「サラ様。サラ様もそれはとてもお美しいお顔なのですよ?
美形イコール嫌悪するものという価値観が育ってしまわれたことは残念ですわ。」
「でもアルマ、わたしにはお絵描きのようにしか皆の顔が見えないのよ?
王様だけが生き生きとした本来のお顔に見えたけれども、そうそう例外ってないと思うわ。
この先も変わることはないだろうし、特に問題ないわ。」
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