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47.解呪の後に

しばらくの間不定期に更新します。

「もう大丈夫です、成功です。」

「!」

微笑みをたたえながらガブリエルさんが告げた。

わたしはガブリエルさんの微笑みを見てすぐに隣の母の顔を見た。少し痩せて年を重ねているが、肖像画で見たことのある母の顔が見えた。

涙がにじむ。どんどん母の顔が歪む。


「かあさま…」

母はわたしの頬の涙を拭い頭をぽんぽんとした後、ガブリエルさんに向き直り感謝の言葉を述べた。


「ガブリエル様、神官様、ご尽力頂きましてどうもありがとうございました。娘共々心より感謝申し上げます。」

「ガブリエル様、マシュー様、誠にありがとうございます。父であるスプングリス侯爵の名代として、心より御礼申し上げます。」

「本当に、ありがとう、ございました。心より感謝、致します。」

母に続いてグレッグも御礼を述べる。わたしも続けなければと、止まらない涙で濡れた顔を上げて最低限の御礼を述べた。


「いいえ、こちらこそ力不足で申し訳ありませんでした。

 依頼された解呪をようやく成すことができまして、ほっと致しました。

 サラ様の目はきちんと認識できるようになったようですね。マイア様のお身体はこれから快方に向かうでしょう。」

「いいえ、謝ることなど何もございません。本当に、ありがとうございました。

 ようやく我が娘に母の顔を見てもらうことができまして、これ以上の喜びはございません。」

「お役に立てたようで何よりです。」

ガブリエルさんは嬉しそうに微笑んだ。


「ところで、そちらの媒体なのですが…

 呪術師と髪の毛の持ち主は判ったのでしょうか?媒体はすでに破損しているようですが…」

「グレゴリー様、それですが…呪術師と呪いを依頼した者の名前は黒く塗りつぶされたかのように読取ることができませんでした。それにぬいぐるみの状態では呪いを感知することはできませんでした。

 相当知識の豊富な呪術師のようです。

 それとこの媒体はマシューが解呪いたしましたので、既に呪いは消えております。」

「ということは犯人は分からずじまい…ということですね?」

「ええ、力不足で申し訳ございません。」

「いいえ、国一番の実力者であるガブリエル様でも難しいのなら仕方がありません。

 解呪できたことだけでも素晴らしい功績です。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「ところで、そちらの媒体はどうなされるのでしょうか?父への報告の為にも持ち帰りたいのですが…」


 わたしはガブリエルさんとグレッグの遣り取りを目にしながら、初めて見る生身のグレゴリーの顔に肖像画とは少し違うかなあ、などと思っていた。グレゴリーの斜め後ろに立っているのがイーサンに間違いない。初めて見る顔だけど目は切れ長で、はっきりした顔のグレッグに比べたらあっさり、と表現したらよいのだろうか、表情が一つも変わることなく前を見ていた。


「スプングリス侯爵子息様、そちらの媒体は証拠の品としてこちらで預からさせて頂きます。」


 初めて見る顔が多いので少し混乱してしまう。

声の主は今までずっと、ガブリエルさんと上級神官マシューさんの後ろで静かに佇んでいた神官カーティスさんだった。あまりに空気のように溶け込んでいたので今までいたことを忘れていた程だ。


「突如発言しましたご無礼をお許し下さい。

 こちらの解呪済みの物、また容れ物としてのぬいぐるみは物証として、王立法廷所審理官であるわたくしカーティスが押収致します。

 これは王命でもありますので侯爵様であったとしても拒否権はございません。

 こちらが審理官身分証、そしてこちらが勅命書でございます。ご確認下さいませ。」

カーティスさんがグレッグに歩み寄り、身分証と勅命書を差し出した。


 グレッグは堂々としているように見え、狼狽えているような顔には見えない。表情から感情を読むことはほぼ初心者のようなわたしだ。他人の胸の内が分からないのは仕方ないのだが、今後の課題としよう。

グレッグに続いてイーサンも身分証と勅命書を確認し終えると、それらをカーティスさんに返した。


「本物のようですね。」

「そのようだ。」

「わかりました、審理官殿。そちらの媒体をご受領ください。ぬいぐるみは屋敷に戻り次第引き渡しましょう。」

「ご了承頂きまして、誠にありがとうございます。」

「国王陛下はこの呪いの件についてどの様にお考えになられているのでしょうか?

 重要視されていることはわかりましたが。」

「そんなに硬くならなくとも大丈夫です。

 国王陛下は被害者であるスプングリス侯爵家を処罰なさるわけでも、今後の処遇をお変えになるわけでもございません。」

カーティスさんはにっこり微笑んだ。だが人差し指を立てるとこう続けた。


「ですが、呪いをかけた者、呪いを依頼した者、は別の話です。

 侯爵子息様は既にご存じかと思いますが、現在貴族の間では呪いの噂が広まっております。

 国王陛下はこの状況を大変危惧なさっておいでです。第二、第三の呪いの事件が発生するやもしれませんので。

 ですから、両者を内密に罰し、呪いの件を終息させたいとお考えになっておられます。スプングリス侯爵家にはその為の全面的な協力を求めておられます。」

「我が家の立場を慮っていらっしゃる、ということですね。

 また内密に処罰するというのも、噂を拡大させない為という理解でよろしいでしょうか?」

「さすが侯爵子息様、ご理解が早くていらっしゃる。大変助かります。」

決着したようだ。


 話をまとめると、媒体からは呪術師と依頼者の名前は判らなかった。だが媒体は証拠として王立法廷所が押収する。そして国王陛下は内密に処罰したいとお考えになっているが、我が家の立場はこれまでと変わらない。現況では義母は罰せられることはなさそうなので呪いの件はこのまま終息していくだろう、といったところだろうか。

色んな事が起こって感情的にも状況的にも混乱気味だ。少し落ち着く時間が欲しい!



読んでいただきありがとうございます。

尊敬語、謙譲語はむずかしい… 


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