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46.二度目の解呪

 グレッグと共にダイニングルームへ向かう。

三人の神官達はすでに朝食の(ブレックファスト)お茶(ティー)をもらっていた。


「お早いですね、皆様。よくお休みになられましたか?」

「おはようございます、皆様。」

「お早うございます、グレゴリー様、サラ様。

 ええ、ゆっくり休めました。我々も先程着席したばかりです。」

「お早うございます。」

「おはようございます!」

挨拶をしながら席につく。ティーカップからは湯気が立ち上り薬草茶の香りがしている。神官達をお待たせしたわけではなさそうだ。

 旅の途中では各々のタイミングで朝食を済ませ出発の時間で集合していたが、今朝は軽い打ち合わせも兼ねているので全員集まっての朝食会だ。

メイド達が配膳を始め、皆で食事を始める。よくある通常の朝食なので品数は多くなく時間はかからない。

あらかた食べ終えて食後のお茶を淹れてもらう頃グレッグが報告を始めた。


「では私から報告ですが、持ち去られた呪いの媒体と思われるぬいぐるみは取り返すことに成功しました。

ですが、ランスロットとロイドと名乗った男達には逃げられてしまいました。」

従者のイーサンが会釈をしてテーブルにぬいぐるみを置く。


「ですので、今日はこの後療養院に向かいたいと思います。」

「グレゴリー様、今そちらのぬいぐるみを見せて頂いても宜しいでしょうか?」

「勿論です、ガブリエル様。」

「マシューに渡して頂けますか?」

イーサンがマシューのテーブルの上にぬいぐるみを置くと、マシューは手に取って繁々と見つめた。

どうだろうか、呪いの残滓はあるのだろうか?緊張しながら待つ。


「どうですか、マシュー?」

「呪われているようには見えません。」

「そうですか。私も同じく呪いは感じられないです。

 グレゴリー様、大変恐れ入りますが、このぬいぐるみを少々分解してもよろしいでしょうか?」

「セイラ、良いか?」

「あの、ガブリエル様、分解とは…?」

「損壊するわけではありませんが、縫い目を少々(ほど)いて中身を確認させて頂きたいのです。

 修復をお願いする為にも、裁縫の得意な方にお願いするのがよいかもしれません。」

「この屋敷で一番裁縫の得意な者を。」

わたしが首肯する前にグレッグがすかさず指示した。すると執事がすぐに部屋を出て行った。

数分後、執事と共にメイド長が裁縫道具を持ってダイニングルームにやって来て、扉の前でお辞儀をするとその場で声掛けを待つ。


「メイド長、そちらのぬいぐるみを解いてくれるか?」

「はい、グレゴリー様。勿論でございます。」

「急にお呼び出ししましてすみません。

 こちらのおなか部分の中身を指を差し入れて確認できる程度、縫い目を解いて下さいますか?そして終わりましたら、また元通りに縫い合わせてもらいたいのです。」

「はい、了解致しました。」

ガブリエルさんに説明を受けたメイド長は、マシューさんからぬいぐるみを受け取ると配膳用の台車の上で手早く器用に作業を始めた。そしておなか半分程解くとガブリエルさんに伺った。


「ええ十分です。配膳台ごとマシューの席までお持ち下さい。」

メイド長は言われた通りにする。

するといつの間にか白い手袋をつけたマシューさんがぬいぐるみを手に取り、解いた部分に指を入れて中を探るようにした。そしてそっと引き出すと指先は何かを掴んでいた。

マシューさんはそのままガブリエルさんの方を向くと掌の上に乗せたまま見せた。

中に何かが入っていたことに長年気が付かなかった。それに、掌の上にある物はとても小さくてわたしの位置からはよく判別できない。とても気になる。


「グレゴリー様、サラ様、解呪を試みましょう。

 ですが、お二人同時に行いたいのでまずは療養院に向かいたいと思います。」

「何かわかりましたか?ぬいぐるみから取り出した物は何なのでしょうか?」

「出てきたこれが媒体です。念のため私かマシュー以外は触らない方がよいでしょう。

 詳しい説明は解呪を試みた後でもよろしいでしょうか。まずは解呪が成るかどうか試したいと思います。」

「そういうことでしたら。ではすぐに療養院に向かいましょう。」

ようやく!

ようやく、呪いの媒体に辿り着いた。後は妨害される前に解呪を実行したい。

グレッグやイーサンに奪取されるかもしれないという一抹の不安を抱えながら、一刻も早く療養院へ!という気持ちが逸った。



 半刻後、療養院に到着した。

先触れを出したので院長も母もわたし達の来訪を知っている。すぐに母の部屋へと通された。

ちなみに先程の極小の媒体は、呪われし物専用の容れ物に入れてマシューさんが持ち運んだ。


 朝の挨拶もそこそこに、ガブリエルさんが今から解呪を試みることを母に伝えた。

母はベッドに上半身を起こした状態で坐していたがベッドの縁に腰掛けるようにしてもらい、そのすぐ横にわたしが腰掛けることになった。

ガブリエルさんは母とわたしの中間前方に立ち、マシューさんが掌に布を被せた上に媒体を乗せてガブリエルさんの方を向いている。グレッグとイーサンはベッドの足側に立っている。

この期に及んで邪魔するようなことはなさそうだ。


「では始めます。気楽になさっていてくださいね。」

ガブリエルさんが一度深呼吸をして、手をそれぞれ母とわたしの額に翳し唱え始めた。


「我らをお守り、導きくださる神々方よ、

 どうか呪われしこの哀れな御子達より

 呪いの念を込められたこの石と髪の毛の持ち主

 によってかけられた呪いを

 祓い清めてくださいますよう、

 我 ガブリエルが祈りを捧げます。」

「我らをお守り、導きくださる神々方よ、

 どうかこの石と髪の毛に込められた呪いの念を解き

 祓い清めてくださいますよう、

 我 マシューが祈りを捧げます。」


 ガブリエルさんに続いてマシューさんが文言を唱えると、小さな小刀の先で媒体を傷つけるようにした。

ほんの僅かな間、静寂が部屋を支配する。

呪いはどうなったのだろうか?



読んでいただきありがとうございます。

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