44.ガブリエルさんの告白
当分の間不定期に更新します。
わたしも媒体について確認したかったので、ガブリエルさんと呪いの件について話せることは歓迎だ。わたしの部屋に来てもらうことにした。
「あの、昼間にも聞いた媒体のことなのですが…」
「ええ、マイア様のお部屋に呪いの残滓を感じる物がない、と言ったことですね?」
「はい、そうです。」
「まずは持ち去られたぬいぐるみが媒体である、というのは確実なのですか?」
「はい。依頼者、と思われる方が母とわたしに贈った物の一つなのです。
そしてわたしの所有していたもう一つのぬいぐるみも持ち去られたので、媒体である可能性がとても高いです。」
「そのぬいぐるみは神官の誰かに触れられたことはありますか?」
「え、神官の方ですか?えーと…ないと思います。」
「スプングリス家のお屋敷は約11年前に聖域結界をはりましたね。その頃に私に似た神官にお会いしたことはありますか?」
「ガブリエルさんではなく??」
4歳の頃なのでどんな神官に会ったかも覚えていない。だけどガブリエルさんに似た人とはどういうことだろう?
「私には双子の姉がいるのです。彼女も神官でした。」
過去形ということは亡くなったのだろうか?首を傾げたわたしを見てガブリエルさんは話を続ける。
「彼女は私が大神官へと昇格した後に神殿を去りました…
霊能力はありましたが彼女は加護を持ちませんでした。その代わりに占術やまじないを勉強して、それらを得意としていました。また修練も人一倍頑張って呪いを視る能力も後天的に得ました。
でも…生まれつき加護を持ち呪いを視認できる能力を持った私は、神殿でいつも特別視されていたので、ずっと不満に思っていたようです。
姉の努力はもっと報われるべきなのに、私だけがいつも称賛されてずるい、と少しずつ彼女の心を歪ませていたようです。
私と神殿を憎む、ようになりました…」
「今は神官ではないのですか?どちらにいらっしゃるかは…」
「わかりません。」
先程からガブリエルさんは項垂れている。
「サラ様とマイア様に呪いをかけたのは、きっと、姉です…」
「え?!」
「先程も申しましたが、姉はまじないが得意でした。
まじないとは…呪いの一種です。」
「そんな…」
あまりの告白に理解が追いつかない。
「姉はサラ様誕生の際の祝福には携わっておりませんが、スプングリス家の聖域結界に携わっています。
きっと、その時に何らかの形で媒体に触れる機会があったのでしょう。呪いの残滓を消したのかもしれません。憶測ではありますが。」
「それじゃ…母とわたしの呪いを解く手段はないということですか?」
「奪われた媒体を視てみないことには…」
ガブリエルさんは申し訳ないという顔をした。
「わかりました。異母兄の従者がぬいぐるみを取り返すことを信じて待ちます。」
「本当に、申し訳ございません…」
ガブリエルさんは立ち上がって頭を深々と下げたのでわたしはぎょっとした。
「いいえ、ガブリエル様は何も悪くございません!まだお姉様が呪いをかけた張本人とも限りませんし!
どうか御顔を上げてください!」
「ありがとうございます。私も全力でご協力しますので、宜しくお願いします。
それで、明日ですがもし媒体が取り返せなくても療養院にもう一度お伺いしたいので、グレゴリー様に進言致しますね。」
「それは助かります。宜しくお願いします。」
「それと、図々しいお願いですが、今お話したことは内密にして頂けますでしょうか。」
「はい、もちろん。まだガブリエル様の憶測というだけですし、ここだけの話に致します。」
「…本当にありがとうございます。
それでは長々とお邪魔しました。どうぞお休みなさいませ。」
そう言って立ち上がって頭を下げ、挨拶をして退室して行った。
ガブリエルさんが去った後も様々な思いが頭の中を駆け巡ってなかなか寝付けなかをった。
本当にぬいぐるみが媒体なのだろうか?
二つのぬいぐるみはどこにあるのだろうか?
ぬいぐるみの呪いの残滓は消えてしまったのだろうか?
ガブリエルさんのお姉さんが呪いをかけた張本人なのだろうか?
呪いを解く手段はあるのだろうか?
こんな時王子だったらなんと言うだろう?手紙を書いて相談したい。今頃何をしているだろうか?
え?王子?
いつの間にか呪いの事から王子のことへと思考が移っており、誰もいない部屋で一人頬を赤らめるのだった。
*
「首尾はどうだ?」
「上々です。」
「捕らえた者達は?」
「逃げました。」
「よし、よくやった。
母上にも困ったものだ…私の立場とスプングリス家の面子のためにも、もっと賢く立ち回って欲しいのだが。」
「後は取引ですね。」
「ああ、お前はもう休んでいいぞ。」
「はっ、ありがとうございます。」
◇
翌早朝、ここ数日ぶりに晴れ間が広がっていた。
あまりよく眠れなかったので眠いが、イーサンはもう戻って来ているだろうか、白いうさぎのぬいぐるみは取り返せただろうか、気になって落ち着かないので庭内を散策することにした。
着替えて外に出て歩いてみると、見えるのは庭を手入れする庭師と石畳を掃除する従僕とメイドだけだった。
少し歩いていると、メイドの一人に声を掛けられた。
異母兄グレッグが話があるのでサロンに来るように、との伝言だった。
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