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40.領地への道中⑤新たな同行者

 窓から見えたのは逃げようとして苦しんでいるような悪霊だった。推測するに、聖域結界をはったから逃げられなくなって中で苦しんでいる、というところだろう。

神官達は街道脇の茂みを取り囲んでいる。


「悪霊がいます。」

出していた顔を馬車の中に向けて言った。


「何か犯罪だろうか?我が領の治安体制はどうなっていたか…」

「強盗かもしれませんね。荷馬車の傍に鍬らしきものが落ちているのが見えました。

 我が国では現在大きな盗賊組織は確認されていませんが、白渋病の流行とともに農産物の強奪が増えているという情報もあります。」

命を落としたのならかなり(たち)の悪い強盗ではないか。


 異母兄グレッグと従者イーサンが考察をしているのを横で聞きながら再び馬車の外を見る。

地面をよく見ると農具らしきものが落ちていた。空中の悪霊は逃げることもできずにもがいていたが、ガブリエルさんが手を上に伸ばして何かを唱えると悪霊は(ほど)けるように宙に消えていった。

 護衛数人でぬかるみに嵌った車輪を持ち上げる。荷馬車のロバはどれ程雨に濡れていたのか、膝をついて動かずにいた。疲れ切っているのだろうか。

護衛の一人が草むらから被害者と思われる遺体を荷馬車に積み込んだ。

その上に布切れらしきものを掛けてあったので遺体は目にせず済んだ。少しホッとした。神官になるのなら遺体を見ても平静でいられるようにならないといけないのだろうけど…

 そしてその遺体の傍に死霊も寄り添っている。

ということは、先程の悪霊は亡くなったばかりの死霊に寄ってきた流離(さすらい)霊だったようだ。亡くなった事実は変わりようなく悲しいけど、悪霊へと堕ちずに済んだことはよかったと思った。


 護衛主任レオナルドが報告しにわたし達の馬車へと駆け寄ってくる。


「グレゴリー様、あの荷馬車の持ち主とみられる者は残念ながら亡くなっておりましたが、この近くの農民だと言うことです。

 ですが事件の被害者でもありますので、捜査のために治安維持隊に引き渡さねばなりません。幸い神官方が被害者の証言を取って下さりますので、引き渡しまで付き添って下さるそうです。

 とにかくこのまま街道沿いに次の街に向かいたいと思います。」

「わかった、事のあらましは後で聞こう。あの荷馬車は動きそうか?」

「何とか致します。」

グレッグは同じ馬車に乗るわたしに気遣ったのだろうか、今ここでは報告を聞かなかった。

その気遣いは結局無駄になったが…



「いんやー、領主の娘さんとお話できるなんで、生きてるうちは無理だったなあ。

 そっちの若さまと領主さまによーく伝えてくだせえ。」

「ええ、もちろんです。ジョージさんでしたかしら?」

「そうです。」


 護衛が騎乗する馬2頭に続いて荷馬車も進んでいる。膝をついていたロバが以外にもすんなり歩き出したのだ。

そしてなぜかわたしの傍にはジョージさんという死霊がいる。ジョージさんはつぶらな瞳で、顔のあちこちが泥で汚れていて頭には手拭きを被っていて、わたしのイメージの中の農民そのものに見えた。

彼は領主の子供達がいるとわかって訴えに来たのだ。


「わし達農民は強奪に怯えとります。今年は白渋病が流行っとりますから。

 白渋病だって手入れをよーく行っとれば、壊滅状態になる前に防げるです。

 怠けもんの奴らはすぐに他人の物を奪おうと考えていけねえ。」

「白渋病は初期だったら薬剤を散布したら対処できるって新聞にもありました。

 普段からよく見て回って、見つけても落ち着いてすぐに対応すればいいってことですね?」

「薬剤なんて(たけ)えもん揃えなくっても、同じ種類の作物ばかり並べて植えない、密集しすぎないように植える、草取りして風通しをよくする、畑をよく耕して畝を作る、やたらと堆肥をくべない、毎日世話をしとりゃある程度は防げるもんだす。

 もし白渋病になってもその部分だけ取り除いてやりゃええ。白渋病はカビだから。」

「そうなのですね。ジョージさんは真面目に農業に取り組んでらしんたのですね。」

「そうです。ほとんどの者はちゃーんと毎日汗水流して手入れしとるんです。

 ぼんくら共が後を継ぐと、怠けて適当にやろうとするから白渋病が流行って被害が大きくなりよる。」

「ジョージさんが領主に伝えたいことは白渋病の対応策、ということですか?」

亡くなった方の意向はできるだけ汲み取ってあげたい。けれどジョージさんには日頃から思うところがあったようで憤っている。


「いんや、ほとんどの農民はちゃんと親から学ぶんです。問題なのは一部のぼんくらだけ。わし等がうるさく言ったところで耳を貸すような連中じゃない。

 領主様には農村に巡視をよこして欲しいです。適当な農作業をしてる者には指導するように。

 それと不作の年だけでいいから街道の見廻りを増やして欲しいです。」

「なるほど、わかりました。きちんと異母兄(あに)に伝えますのでご安心下さい。」

「ありがとうございますだ。」

ずっと腕を組んで黙っていたグレッグに今のやり取りを伝える。


「わかった。とりあえず検討するとしよう。我が領としても白渋病の被害が少ない方がいい。

 それに、農産物強盗の挙句に殺人まで起こるようじゃ領地の治安としても問題だ。」

「いや、わしは殺されたわけじゃないんです。」

「え?違うんですか?」

わたしの傍で兄の返事を聞いていた農民ジョージさんが答えた。


「わしは農産物を奪われたときに、かーっと頭に血が上ってそのまま倒れたんです。

 それで、わしと一緒に来ていたブライスという若い男が助けを呼びに行った。それで雨に濡れないようにとわしを茂みの中に置いていったんだが…そのまま死んでしもうた。」

「お気の毒様でした。」

「ですがな、わしはあいつらに殺されたようなものです。

 ブライスも自分から用心棒を買って出たというに、やたらと及び腰で応戦しようともせんし。もしかしたら裏であいつらと手を組んでいたのやもしれん。腹立たしい!」

ジョージさんはまた憤り始めてしまった。

このあと20分程、街に着くまでジョージさんの嘆きは続いたのだった。




読んでいただきありがとうございます。

当初の盗賊設定をやめて、だいぶ話を変えて穏便な話にしました。


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