36.領地への道中①グレッグの思惑
※整合性のない最後の文章を少し手直ししました
領地へと解呪のために向かう同行者として異母兄グレッグが来ることになった。
急を要する件であるため出発は明日と迫っている。
「侯爵様のご指示とはいえ、グレゴリー様は信用できるのでしょうか?パトリシア様のご嫡男ですわ。」
「父が代理に立てるくらいだから、お異母兄様は少なくともお義母様側ではないのではないかしら?」
わたしは文机で手紙を書きながらアルマに答えた。
グレッグと一緒に解呪のために領地に行くことになったと、王子に報告しておこうと思ったのだ。
領地を往復して戻る頃には7日は経っているだろう。その間は手紙でも連絡をとれないことを寂しく思った。
いけない、また王子のことばかり考えて失敗をしてしまうかもしれない、と頭を切り替えようとした。
「お異母兄様はお異母姉様に比べるとわたしのことを敵視していなかったわ。かといってわたしの味方というわけではないでしょうけれど。」
「パトリシア様にも知られてしまっているのではないでしょうか?」
「そうねえ。お異母兄様が同行しなくても、わたしが領地に向かうことは何れわかってしまうわ。できれば出発直前まで気付かれずに、相手に対応する時間を与えたくはなかったのだけど。
一応警戒はしておきましょう。」
「はい、わかりました。」
そうなのだ。グレッグが同行することで、義母側に解呪を妨害されたり媒体を奪われたりする機会を与えたくはない。
だけれども、グレッグがいることで義母が表立って行動することが出来なくなる可能性もある。父が同行代理として寄越したのなら、グレッグは解呪には賛成なのだろうと思いたい。
「同じ馬車になるのですよね。気が重いですわ。
私はグレゴリー様の従者の方が苦手です。隙のない様子が堅苦しくて。」
「お異母兄様は次期当主ですもの、従者のイーサンも有能なのよ。」
アルマは話しながらもテキパキと旅の荷造りの最終確認をしている。
領地の屋敷に2日滞在するだけでも往復で7日はかかるだろう。ドレスの類は必要ないが荷物はそれなりに多い。
「それはそうと、サラ様は約1年ぶりにマイア様に会えるのでとても喜ばしいですね。」
「そうね、通常なら学校の夏季休暇である6の月ですもの。領地にいるかあさまに会えるのは。
長く滞在できないとしても会えるだけでも嬉しいわ。」
「無事、解呪が成ってマイア様のご容態が回復するといいですわね。」
「そうね、そうなることを願うわ。」
解呪のための領地への旅に思いを馳せながら明日への準備を終えた。
◇
さて、出発の朝。あいにくの曇り空だ。旅の途中で雨が降るかもしれない。
スプングリス家を出て神殿でガブリエルさんと合流した。ガブリエルさんと御付きの神官方は神殿の馬車に乗っていく。これから国道を走り南西にある領地を目指し、今夜はスプングリス侯爵家に隣接する領の領都で宿をとる予定だ。
わたしの乗る馬車は異母兄グレッグとその従者のイーサン、わたしと侍女のアルマである。護衛のアンドリューとバーナードの凛々しめ卵&テディベアコンビも騎乗で帯同している。
イーサンは目力が強いと表現したらいいのか、隙がなく怖い顔に見える。グレッグよりかは体が一回り大きく、腕もそこそこ立つのだろう。
今回は次期侯爵となるグレッグも一緒の上、王都と領地を移動する旅になるため、わたしの護衛以外にも10人規模の護衛団がついてきていた。
「お異母兄様、最高学府を7日程お休みしても大丈夫なのですか?」
「いや、問題ない。異母妹の呪いを解くことの方が大事だよ、僕にとってもね。」
「お義母様には何か言われませんでしたか?わたしのせいで申し訳ありません。」
「ああ、あの噂を気にしていたのか。大丈夫、私はセイラに近づいても呪いがうつると信じてない。」
ん?あの噂?グレッグはわたしの懸念を何かと勘違いしているようだ。
「あの、噂とはどのようなことでしょうか?」
「すまん、セイラに関する噂はそれこそ色々と溢れていたな。
私が言っているのは、マイア夫人とセイラがバンドール男爵家から呪いを持ち込んだという噂のことだよ。スプングリス侯爵家が呪いにかかる危険に晒されているっていう。」
「そうでしたか。そのような噂もあるのですね。
でしたら尚更お義母様はご心配なさって反対なされたのではないでしょうか?」
そんな噂も流れていたのか。そもそも呪われた家系なんてないと思うのだけれど。呆れてしまう。
「母上は私が同行することには反対していた。呪いに近づくのは危険だと。
だが呪いをそのままにしておく利点はないだろう?
マイア夫人とセイラの解呪が成功して、スプングリス侯爵家には曇りがないと明示した方がよっぽどいいはずだ。そしてその手助けをしたのは次期当主である私であると示し、次世代に懸念を残さないことがスプングリス家として重要だ、と沈黙させたんだ。」
「さすがです、お異母兄様。心より感謝申し上げます。」
グレッグはグレッグなりの思惑があってわたしに協力してくれている。当たり前だけれども。
グレッグの協力の理由が純粋な優しさと心配からではないとしても、義母を言い包めてくれたことは感謝したい。
それに思惑が知れただけでも少し安心する。油断は禁物だけども。
「それに、少し食傷気味だったんだ。」
「何にですか?」
「母上とクリスタの悲劇の主人公ぶりさ。
実際の被害者はマイア夫人とセイラだっていうのに、まるで被害者は自分だとばかりに同情を集めている様子がね。そう演じることでこの呪い問題の重要な点を誤魔化しているのだろうけど。」
ギクっとする。グレッグはどこまで知っているのだろう?義母が呪いを依頼した本人だと察しているのだろうか?だとしたら、証拠でもある媒体を隠滅しようとするかもしれない。
「スプングリス家が呪われた一家だと貴族界で爪弾きにあうのは防げたから、作戦としては成功だけど。
セイラの呪いも祓えたら、きっと何事もなかったように元通りになるさ。私がそうなるようにするから、セイラは安心して。」
グレッグは貴族界での我が家の評判のことを言っていたようだ。
相変わらずグレッグはギョロ目がこちらを観察しているように見えて、やはりグレッグには気を許してはいけないと思い直した。媒体が物的証拠でもあることとぬいぐるみがそれであることを、解呪が成るまで知られないように注意しなければと。
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