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33.やはりぬいぐるみが媒体

※32話に少し加筆しました

 そのあとアルマと一緒にわたしの物が保管されている部屋を確認してみた。案の定、お人形等は残されていたがぬいぐるみがなくなっていた。

得も言われぬ気持ちでいると、折よく執事のハワードが、翌朝父が別館を訪れることを言付けに来た。媒体とぬいぐるみについて伝えようと思っていたためだ。


 翌朝ダイニングで朝食をとる。今日は休息日なので学校や仕事は休みだ。

食べ終えた後ミルクティーを飲みながらいつものように新聞を読んでいた。可愛らしいりんごのような顔に見えるメイドのエミリーが食器を下げにくる。


「今年は白渋病の害が多いのですってね。農園地帯の方は心配ね。エミリーの故郷は大丈夫?」

「サラお嬢様、わたしの実家は林檎農園を営んでいるんです。残念ですが白渋病で今年は不作になりそうです。いずれにしましてもご心配ありがとうございます。」

「それは残念ね。わたしで力になれることがあったら良いのだけど。」

いつもより元気のなさそうなエミリーが少し気になった。


 父は9時半頃にやってきた。


「おはよう、サラ。最近は元気にしてるか?」

「おはようございます、お父様。お疲れのように見えますが、大丈夫でしょうか?お父様にご足労頂いて申し訳ございません。」

「大丈夫だ。昨夜の晩餐会で少し遅くなっただけだ。」

「朝食は召し上がりましたでしょうか?何かご用意致しますよ。」

「ああ、じゃあ温かいスープを貰いたい。」

「わかりました、用意させますね。お話はわたしの部屋に致しますか?」

「ああ、そうしてくれるか?」

「わかりました。では参りましょう。」


 わたしの部屋に父の軽食を用意してもらうまで、父の話を聞く。

一昨日神殿で義母の診断をしてもらったそうだ。もちろん呪いなどかかっていないという結果だった。ガブリエルさんには呪いの繋がりは視えなかったのだろうか?


「それが視えなかったそうだ。パトリシアが神殿にいる間、呪いたいという気持ちを抑えていたのかもしれない。もしくは本当に依頼者ではないのか…」

「とりあえずお義母様が呪われてなくてよかったではないですか。

 わたし達は媒体となった品物を見つけて解呪を目指しましょう、お父様。」

「ああ、そうだな。」


 父は用意されたスープ、サンドイッチ、果物の盛り合わせを、わたしは香草茶をいただきながら一昨日の報告をする。


「王子殿下にはわたしの赤子の頃の指輪、銀のスプーン、ヘアバンド、ドレス、御包み(おくる)、室内履きを直に視て頂いたのですが、呪いの媒体ではありませんでした。」

「そうか。」

「それと、その後の会話からぬいぐるみはどうだろうかと思い至ったのですが…この部屋にあったぬいぐるみと、保管部屋にあった他のぬいぐるみが失くなっておりまして…

 申し訳ありません、お父様。わたしの配慮が不十分でした。」

「それは不審だな。このタイミングでぬいぐるみだけが失くなるというのは。

 アルマ、この屋敷の者に確認したか?」

「はい、侯爵様。紛失に気付いた日にこの部屋に入ったのは私とエミリーというメイド1名だけでした。」

「その者は持ち出していないと?」

「はい。」

「ふむ。他に不審な点はないか?」

「おかしなことと言えばマイア様からのお手紙が汚れて破損してしました。配達人がぬかるみで滑って落としてしまったとかで。」

「それも通常ならあり得ないことだ。おかしい…」

父は少し考えたあと切り出した。


「私にもマイアから手紙が届いた。パトリシアからの出産祝いの品々についてだ。

 それに家令のケンジーにも記録簿を調べておいてもらったから間違いないだろう。」

スプングリス侯爵家として歳入と歳出の記録はきちんとされている。そしてお祝い事の贈り物や返礼などの記録もきちんと残されていた。当然と言えば当然だが、調べればすぐにわかることだったのだ。


「二人によるとパトリシアがマイアに出産祝いとして贈ったものは、銀のスプーン、白絹のドレス、金糸刺繍のヘアバンド、花模様の刺繍がされた布の室内履き、白と黒のうさぎのぬいぐるみ2体、画家フェメールによる肖像画、産婦用の薬草茶だそうだ。

 詳細はマイアの方が詳しかった。ケンジーの記録簿にはどこの商会で買ったかの記録もある。」

「流石ですね。かあさまもよく覚えていらしたのですね。

 ですが…黒いうさぎのぬいぐるみは紛失してしまったのです。」

ぬいぐるみが媒体かもしれないのに、王子のことで頭がいっぱいになって確認を怠ってしまったなんて。そのせいで紛失してしまって忸怩たる思いに駆られた。俯いたサラに父が続ける。


「だが、白いうさぎのぬいぐるみはマイアが持っている。そうだろう?」

「ええ、はい。」

そうなのだ。病床の母が寂しくないようにと、幼いわたしはうさぎのぬいぐるみの片割れを母にあげていたのだ。願わくはそのぬいぐるみが媒体であって欲しい。

しかし同時に、わたしが母にぬいぐるみをあげたせいで母の身体が弱ってしまったのではないか、と自己嫌悪にも陥っていた。わたしの呪いは目だけに留まっているが母は寝たきりになってしまった。


「肖像画は画家フェメール本人が屋敷に来て描いたものだから、これが媒体である可能性は低い。

 ぬいぐるみが持ち去られた件も考えると、そのぬいぐるみでほぼ確定であるだろう。」

「はい、早速大神官ガブリエル様に視て頂きましょう。」

「依頼者側に勘付かれないように、早急に手配する必要がある。

 サラとガブリエル殿に領地に向かってもらい、そこで解呪を試みるのがいいだろう。まだ学校は夏期休暇に入っていないが解呪を優先する。ガブリエル殿の都合がつき次第、出発だ。

 よいな?サラ。」

「はい、もちろんです!お父様。」

解呪に向けて希望が見えてきた。

 



読んでいただきありがとうございます。

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