4.余計なことを!
新年になった。
新年初日はさすがに本館での会食に出席して挨拶をしなければならない。気が重いが仕方がない。
父から贈られたデイドレスを着付けてもらう。家族内での会食なのでコルセットなしなのは助かったがドレスに合わせて軽いお化粧と髪結いは必要らしい。できればあまり顔を見せたくないのだが…
「素敵ですわ、サラ様!薄化粧で上品さと美しさが際立ってますよ。」
「ねえアルマ、前髪だけでもおろしちゃダメかしら?落ち着かないわ。
あまり目立ちたくないのよ。またクリスタお異母姉様に嫌味を言われそう。
それに…お義母様が眩しくて顔を背けたくなってしまうのよ?」
わたしの発言にアルマがふっと小さく吹き出した。
アルマはわたしの侍女で、わたしより少し年上だ。成人となったあとに見習いから正式な侍女になった。わたしにとっては仲のよい友達のような、本当の姉のような存在だ。
ちなみにアルマは優しい微笑みをうかべていてまるで聖母様のように見える。実は怒られてもちっとも怖くない。なのでお説教されてもついニコニコしてしまって、さらにお説教が長引いたことが何度もある。
「サラ様。サラ様は堂々としていていいのですよ。スプングリス家の一員なのですから。
パトリシア様が眩しく見えてしまうのは、えー…気合で頑張っていただくしかないです。」
「ほらー、アルマだって思わず笑ってしまってるじゃない」
二人でくすくすと笑ったあと、冷たい空気が頬にあたる内園を歩いて本館へと向かった。
本館に入ると執事のハワードの案内でサロンに向かう。
ちなみにハワードは白髭と白髪がもこもこの、羊のように見える。執事だけに。わたしにしかわからないのが残念だ、とにまにましながらついていった。
父と義母、異母兄はすでにソファにくつろいでモーニングティーを飲んでいた。
「新年おめでとうございます。お父様、お義母様、お異母兄様。
うやうやしく新年の慶びをおたたえ申し上げます。」
この後すぐに家族そろってダイニングルームへと移動し、新年最初の会食を家族揃ってとるのでここでは簡単にだけ挨拶をする。
「ああ、新年おめでとう、サラ。」
「新年おめでとうございます。」
「新年おめでとう。」
相変わらず犬のように見えるかわいらしい父、顔面がキラキラと輝いて直視するのがつらい義母。そして大きな目がギョロリと動いて観察しているかのように見える異母兄のグレゴリー。異母兄の目も常に観察されているかのようで苦手だ。
だいたいどこの家も新年初日はゆっくりと起きて、最初の食事時に家族揃って新年の挨拶をおこない、特別なブランチをとることがほとんどだ。
新年を迎えるとともに季節も春へと移ろいで行くので、家族全員で神様への感謝を捧げるとともに今年一年の健康と無事を祈って一年の始まりの日を過ごすのだ。
すぐに異母姉のクリスタが入ってきた。わたしを見てほんの一瞬眉を顰めた。
「お父様、お母様、お兄様。新年おめでとうございます。」
わたしのことはいないことにしたらしい。学校でもいつもそうしてくれたらいいのに。
「私が1番最後でしたのね。お待たせしてしまってごめんなさい。新年最初の日ですので、おめかしに気合いを入れすぎてしまいまして。」
「いや、大丈夫だ。遅れたわけではないよ。
クリスタもサラも2人ともとても美しいレディだね。わたしの自慢の娘達だ。」
「父上、ここに麗しい青年もおりますよ。」
異母兄のグレゴリーがおどけて言った。
「そうだなグレッグ。お前も今年3回生になるし、もう少し夜会にも頻繫に連れて行かねばならんな。そろそろ結婚相手を見つけなければ。
まぁまずは新年の祝いをしよう。そろそろダイニングルームに移動だ。」
「ええ、そうですね」
父に続き、義母、グレゴリー、クリスタ、わたしと順にサロンから移動した。
「相変わらず盛装姿は厭味ったらしいわね。」
わたしにしか聞こえないような小声でクリスタがつぶやいた。
家族イベントだからしぶしぶ盛装したけど、わたしとしては厭味のつもりはない。
やはりわたしがスプングリス家から離籍しない限りは、この方たちは幸せになれないんだろうなぁ。面倒だなぁ、貴族。
改めて新年の挨拶を交わし感謝の祈りを捧げたあとは、新年仕様のブランチスペシャルコースだ。
食事に集中するふりをして義母とグレゴリーにあまり視線を向けないようにする。いやでも本当に我が家のシェフ達はいい仕事をするのよ?せっかくのスペシャルコースだから楽しみたい。
と思っていたけど、やはり食事を楽しむだけでは終わらないらしい…
「グレッグ、先ほどの話だが。あと2年で卒業となりその後は私の業務を補佐してもらいながら、侯爵としての経験を積んでいってもらうことになる。
まだ早いかもしれぬが、そろそろ結婚相手を見つけなければならぬぞ。
知っての通り、今公爵家にはちょうど釣り合う年齢のご令嬢はおらぬ。とすると同格の侯爵家か功績をあげている伯爵家からとなる。もしくは他国の釣り合いのとれる侯爵家か。
いづれにしても情報を精査しながらお前も顔を広げていかねばな。」
「ええ、父上。心得ております。」
大変ですねぇ、頑張って下さいと心の中で応援していたら、こちらにも流れ弾が飛んできた。
「父上。クリスタとセイラも今年高等学校を卒業になります。二人もそろそろ本格的に結婚相手を探しはじめるべきでしょう。私とともにお茶会や夜会に積極的に参加するのがよろしいと思うのですが、いかがでしょうか。」
ええええええ!このギョロ目め!余計な進言を!!!
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