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32.母の手紙とぬいぐるみ

作中4の月は、6月頃の季節にあたります。

※サラがぬいぐるみを紛失する部分に少し加筆しました

「他に質問はあるか?」

「呪いの媒体は他の人が触っても大丈夫なのですか?」

「術式に対象者の名が組み込まれているから、それ以外の人間が触っても何も起こらないはずだ。」

「呪いは媒体との接触時間の長さが関係しますか?」

「発動までどれくらいの時間触る必要があるかってことなら、時間が長けなれば長い程成功率は上がるだろう。呪術師の腕にもよるが。

 呪いの内容ということなら比例しない、と言いたいところだが、それはどんな類いの呪いかにもよるだろう。

 例えば顔にできものが出来る呪いだとしたら、媒体に触っている時間が長くなればできものも大きくなるだろう。」

「あの、母が…体が弱くなる類の呪いにかかっていまして、もう10年近く臥せっているんです。母は媒体に触れていた時間が長かったのかと思いまして。」

「それはお気の毒に。確かにセイラ嬢の言う通りかもしれないが断定はできない。

 どれが媒体なのか見当がついたのか?」

「はい、何となくですが。」

「セイラ嬢、ではそちらをまたお持ち下さい。僕が視てみます。

 それと盗難・紛失に気を付けてください。」

「盗難ですか?」

そういえば父もアルマに私物の管理をよくするようにって言ってた。


「そうです、媒体には術式がかけられています。その術式には依頼者の名前が組み込まれているでしょう。なにせ負の感情を呪いの原動力にしているのですから。

 この上ない物的証拠です。依頼者はそれを隠滅しようとするかもしれません。」

「わかりました。しっかりと管理致します。」

「また他にも懸念がありましたら遠慮なく僕を頼って下さい。」

「ありがとうございます、マキシミリアン殿下。とても心強く有難いです。」

「呪いについて何か質問があればいつでも訪ねてくるといい。僕にもね。」

「いつも色々とご教示下さりましてありがとうございます、ヒューゴ先生。感謝申し上げます。」


 その後最高学府を後にし、王子がまた馬車で家まで送ってくれることになった。

わたしもまた馬車で来ていたし噂のこともあるので一度は断ったのだが、王子は噂を気にしないし話したいこともあると言うのでお願いしたのだ。


「セイラ嬢、心当たりの媒体は何でしょうか?」

「ぬいぐるみです。幼い頃にわたしがお気に入りだったものでした。それが義母からの贈り物かは確信がありませんが。」

「でしたらそれは神殿にてすぐに鑑定するのが良いでしょう。」

「父にも相談してみます。」

王子がにっこりと微笑んで頷いた。

最初は警戒していたその笑顔だが、最近は見るたびに胸がドキドキしてしまう。


「それから…辛い思いをしていませんか?学校やご自宅で。あなたを見て逃げるように避けられたり、心無い言葉をかけられたり…

 僕の見通しが甘く、あなたの立場を悪くしてしまいました。あなたに謝りたかったのです。本当にすみません。」

「いえ!どうかお顔をあげて下さい、マキシミリアン殿下!

 殿下は何も悪くございません。むしろご協力頂いて、ご迷惑をかけているのはわたしです!大変申し訳ございません。」

「いいえ、あなたには今後一生醜聞が付きまとうかもしれません。

 僕は後学のためになるからという打算があって協力を申し出ただけで、感謝されるようなことはないのです。」

「殿下に打算があったとしても、呪いだと気付いて教えて下さらなければ何も変わりませんでした。感謝の気持ちしかありません。」

「ふ、前にも同じようなやり取りをしましたね。」

「そうですね、ふふふ。」

「もうすぐ着いてしまいます。あなたの家がもっと遠かったらよかったのに。」

どうしてそんな台詞を言うのだろう?まるでわたしとの別れを惜しんでいるようではないか。胸がドキドキして恥ずかしくて俯いてしまう。


「それでは次は神殿でお会いしましょう。物的証拠が見つかることを祈っています。」

「はい、またよろしくお願い致します。それでは、ご機嫌よう、マキシミリアン殿下。」

「ご機嫌よう、セイラ嬢。手に触れても?」

へっ?!と思って頭が一瞬で茹で上がったけれど、いつの間にか何度も頷いていた。

これはまさか、また、あの?!

王子はわたしの右手を取るとゆっくりと口づけを落とした。王子の柔らかい感触にとても落ち着かず、また喜びを感じている自分にも気付いた。


「どうぞ健やかに過ごせますよう。またお会いできるのを楽しみにしています。」

「わたし、も、楽しみ、にして、おりま、す、殿下。」

真っ赤な顔を見られるのが恥ずかしくて急いで馬車を降り、馬車が行くのを見送った。

わたし、王子のことが好き、なんだ。

馬車が走り去ってもわたしの顔はずっと熱いままだった。

そしてその日は王子のことで頭がいっぱいになり、ぬいぐるみのことをすっかり忘れてしまった。





 次の日雨が降った。そろそろ雨季に入るだろう。

そして雨の中母から手紙が届いた。

 母と離れて暮らしているので、毎月始めと中頃の2回、日常にあったことを手紙に綴って送っている。

母からは体調が良かった日に庭で過ごしたこと、季節の美味しい食材のこと、わたしの日常への感想などが綴られている。


 今回の手紙は封書が汚れて少し破損していた。ついぬかるんだ地面に滑って転倒し、落としてしまったらしい。高位貴族の手紙の取り扱いとしては滅多にないことではあるが、人間なのでそんな間違いもあるだろうと思って受け取った。

 

 内容は成人誕生パーティーで起きたことに対する感想だった。

異母兄グレッグと少し距離が近づいた気がしたこと、テラディウス王国第四王子にアメジストのヘアピンを頂いたこと、ダンスをしたこと、赤ワインでドレスが汚れて着替えの部屋に行ったが鍵がなくなって出られなくなったこと、などに対する感想だった。


 そういえばぬいぐるみ!と思い用箪笥の上に目をやったが、いつも飾ってあったはずのぬいぐるみが見当たらない。ベッドの上にいつも置いてある大きなくまさんはそのまま鎮座しているが。

化粧台の上に移動させ、たわけでもない。自室の入口に控えるアルマに尋ねた。


「ねえアルマ、あそこのぬいぐるみはどこかに移動したのかしら?文机の上にも化粧台にも見当たらないのだけど。」

「あら、おかしいですわね。

 サラ様のお部屋の掃除は私が担当しておりますが触っておりませんし、別館の信頼できる者以外は誰も部屋には入っていないはずなのですが…」

どうしてこんな大事なことを忘れてしまったのだろう!昨日は王子のことばかり考えていて、ぬいぐるみのことを確認しなかった。そのせいでもしかして紛失した?!

読んでいただきありがとうございます。

ヒロインがようやく自分の気持ちに気付きました( ´ ▽ ` )


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