幕間:噂話
会話のみの回です。
「ご機嫌よう、皆様。本日はプレミオス侯爵家のお茶会にご出席下さりまして、ありがとうございます。最高級の茶葉と当家自慢の菓子を用意致しましたので、どうぞ楽しんで下さいね。」
「ご機嫌よう、ヴァネッサさん。本日のお茶会を楽しみにしておりましたわ。」
「お招き頂きましてありがとうございます、ヴァネッサ様。素晴らしいお庭でのお茶会、晴天に恵まれまして幸運ですわ。」
「本日もご機嫌麗しく、ヴァネッサ様。本当に美しい庭園ですわ。美味しそうなお菓子も楽しみですわ。」
「皆様ありがとうございます。
ところでクリスタさん、一昨日は本当に素晴らしいパーティーでしたわ。あの金の粒が散りばめられた真紅のドレスは美しかったですし、王子殿下とのダンスはうっとりしましたわ。」
「ええ、本当に。クリスタ様が身につけていたエメラルドも素晴らしかったですわ。
それに王子殿下からもグリーンアレキサンドライトを頂いたのですよね。クリスタ様の目のお色に映えるようにと。羨ましいですわ。」
「王子殿下と言えば、クリスタ様!手の甲に口付けをなさっておられましたわよね。私も自分のことのように頬を赤くしてしまいましたわ。」
「それだけにクリスタ様。異母妹様と一緒に別室に行かれてましたけれど、一体どのようなお話だったのでしょう?せっかくのクリスタ様の成人誕生パーティーだったというのに、異母妹様の態度にワタクシもう腹が立って仕方がありませんでしたわ。」
「ええ、ええ、わたしもそうですわ。」
「誠に!」
「皆さん、ありがとうございます。パーティーを楽しんで頂けたようですわね。
異母妹のセイラと王子殿下は何でもありませんわ。私の御零れでプレゼントを頂いたりダンスの相手をなさって下さっただけですの。王子殿下はとても心の大きな公平な方ですもの。
例えセイラが近衛騎士隊長やお兄様の級友の方々に次々と擦り寄って、はしたなく振舞っていたとしても。」
「本当にそうですわ!見る度に違う男性と歓談していましたわね。」
「私も言っては何ですけど、クリスタさんの異母妹さんがあんなはしたない方だとは思いませんでした。」
「クリスタ様が気の毒ですわ。」
「皆さん、ありがとうございます。私は大丈夫ですわ。
それに…これはお母様から聞いた話で内緒にして欲しいのですけれど…どうやらセイラは呪われているそうですの。王子殿下はそれに気付いて、優しくも教えて下さったということですわ。」
「まあ!」
「まあ、なんてこと!」
「まあ、それでクリスタさんは大丈夫ですの?」
「そうですわ!クリスタ様に呪いがうつってしまっては大変ですわ!」
「ええ、私も心配ですけれど、私とお兄様は大丈夫みたいですわ。
それに…セイラの母もずっと臥せっていらっしゃるのだけれど、彼女も呪われているんですって。
そして、それだけではないんですの…私のお母様にも呪いがかかっている可能性もあるみたいで…そちらの方が心配で堪りませんわ。」
「まあ!」
「まあ!」
「なんてことでしょう!」
「まあ、本当に災難ですわね、クリスタ様。」
「きっとお母様の侯爵夫人は大丈夫ですわ!」
「そうですわ、クリスタ様。」
「ご心配がすぐに晴れると信じておりますわ!」
「ええ、皆さん。ご親切に励まして頂きまして、私とても嬉しいですわ。ありがとう。」
◇
「聞きましたか?スプングリス家の令嬢の噂。」
「聞きましたわ。テラディウス王国の王子様が手の甲にキスをなさったんでしょう?すごく素敵な方だったって。美男美女のカップルで羨ましいですわ。」
「そうそう、王子様も格好いいのですけれど、それではなく。もう1人の陰気な方の令嬢よ。なんでも呪いがかかってるんですって!」
「まぁ、呪い!恐ろしいですわ!」
「ワタクシが聞いたのは男好きって噂ですわよ?
なんでもパーティーでは近衛騎士隊長をはじめお異母兄様の級友方たちに擦り寄ったり、クリスタ様の後に王子殿下にダンスを強請って踊ってもらったとか。」
「まあ、あの方いつも高等学校では大人しいですけれど、実ははしたない方でしたのね!」
◇
「オーガスティン様、執務中に失礼致します。少々お話を宜しいでしょうか。」
「これはポール卿。分家当主のあなたが何用ですかな?」
「大事なお話なのですが。」
「わかりました。皆、少しの間下がってくれ。」
「それで、ポール卿。どのような件か?」
「オーガスティン様、率直に伺います。側室のマイア様とその御子のセイラ様が呪われているというのは本当でしょうか?」
「何の冗談だ。」
「正直にお答えくださいませ。これは娘がクリスタ様から伺った話です。」
「…パトリシアが話したか。はあー、そうだ。呪いがかかっているのは本当だ。」
「本妻のパトリシア様以下、嫡男のグレゴリー様やクリスタ様は大丈夫なんですね?」
「ああ、今のところは。」
「では即刻隔離するべきでは!
こう言っては何ですが、マイア様もクリスタ様も下位貴族の血を引く御方たちです。本家の血筋を守るためにもすぐに隔離するべきです。」
「何を言う!マイアもクリスタも呪いを掛けられた被害者だ。決して呪いを招き入れた張本人ではない!」
「それは事実かもしれません。しかし、現在この噂は瞬く間に広がっておりますぞ!
スプングリス侯爵家の面子を保つためにも、すぐにお二人を切り離すべきでしょう。」
「いや、まずは解呪することが先だ。二人が呪いから解き放たれれば問題はないはずだ。」
「オーガスティン様、賢明な判断をなさることをお勧め致します。」
「私の考えは変わらん。今日のところは下がりたまえ。」
「…わかりました。ご多忙のところ突然失礼致しました。」
「はあ…」
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