28.パーティー当日⑦アクシデント
ストーリーの細かいところがなかなか書き進みませんでした。
王子と踊り終えて離れると、王子の言った通りダンスを申し込んでくる男性が何人も現れた。
お化粧室に行って参りますので、と断ることで回避することはできた。
しかし、ダンスの場から離れることに集中していたせいで、周りの人垣を抜ける際にどこかの令嬢にぶつかってドレスに飲み物がかかってしまった。
相手に謝って急いで広間を出ると、すぐに侍女のアルマが駆け寄って来てくれた。
こういった貴族の邸宅で夜会等が開かれる場合、招待客が百人以上にもなることが多い。そのため化粧室が数カ所にある。けれどわたしは飲み物のかかったドレスをきれいにする為、アルマに先導され広間からやや離れた客室の一つに向かった。
アルマは向かいながら洗濯担当のメイドと軽食を手配してくれた。さすが侍女なだけあって細やかなことに気が利く。
ドレスを脱いだあとはバスローブを身に着け、ソファに深くかけて軽食を口に運ぶ。パーティー会場を離れたら一気に空腹と疲れが押し寄せてきたのだ。
アルマはドレスの染みを落とせそうか確認してしている。
「サラ様、これは嫌がらせだと思いますわ。赤ワインですよ?よりによって一番染み抜きに厄介な!」
「知らない令嬢の方だったし、偶然ではない?わたしもきちんと見てなかったからぶつかってしまったのだし。」
「いいえ、私は絶対に嫌がらせだと思いますわ。
こんなこともあろうかと、この客室を押さえて替えのドレスも用意しておいて良かったです。」
「まあ!用意がいいわね、アルマ。」
「あとほんの少しだけ休んだらドレスを着直して戻りましょう、サラ様」
「はあ、仕方ないわね。」
大きく息を吐いた。普段ならドレスを理由にこのまま部屋に下がっていただろうが、今日はそうもいかない。
「お疲れのようですね、サラ様。」
「お異母兄様と2曲練習して、その後本番でも2曲踊ったら疲れてしまったわ。それでなくとも今夜は沢山の招待客とお話したし。」
「ですが充実したお顔をされていますよ、サラ様。ふふふ。」
「そ、そうかしら?」
「もう少し頑張って下さいませ。お帰りになられるお客様も出始めましたし、お開きとなる22時まであと1時間半程ですし。」
「そうね、替えのドレスはどれにしたの?」
「元々ご用意していたAラインのクリーム色のドレスですよ。金糸で刺繍が細やかに施され…えーと、あら?おかしいわ?確かにこの客室のクローゼットに掛けておいたのに…」
「どうしたの?何か問題?」
なぜか運び入れておいたはずのドレスがなくなっているらしい。アルマは再び憤りながら、急ぎ別館のわたしの部屋までドレスを取りに戻ることにした。
しかし、更なる問題が起きた。ドアが開かないのだ。
「外側から鍵がかけられているようです。これもきっと嫌がらせだわ!なんて卑劣な!」
アルマがとても憤っている。確かにとても困った。わたしが広間にいないと作戦が遂行できない。
「窓からは出られない?」
「サラ様、ここは2階ですわ。ベルを鳴らして人を呼びましょう。警護の者が巡回しているはずです。」
しかし人を呼んだのはいいが鍵が見つからないらしい。
この屋敷全ての予備の鍵は家令が管理している。家令は父の側近のような存在だ。今夜はパーティーのために忙しく動き回っていて、すぐには鍵を持って来られない。
非常に困った。
*
疲れてもそれを顔に出さないように努めて、にこやかに多くの人と歓談をした。
主催者の娘2人と踊った後は、僕に誘って欲しそうに視線を投げかけてくる令嬢達がいたが、少し休憩する素振りをして主賓席に座ることにした。ランディが僕に近づきたい貴族連中をうまくあしらってくれるだろう。
先程セイラ嬢がドレスに赤ワインを掛けられてしまったのが見えた。
せっかく菫色の大人しめなドレスで、さながら妖精のようで似合っていたのに。可哀そうに。
他の男共に言い寄られないかばかり気を取られていたが、セイラ嬢をやっかんだ令嬢達が嫌がらせをする可能性を見落としてしまったようだ。
着替えもあるだろうし、すぐに広間に戻ってくるはずだが…
主催者の面々はどうしているかな?
当主である侯爵は歓談を続けているようだ。
侯爵夫人はというと、主催者席に戻って小休止をとっている。側にいるのは同派閥の夫人達か。
嫡男のグレゴリーは、同じく貴族子息達と歓談中。
クリスタ嬢は幾人かのご令嬢と共にダンスの誘いを受けていて、顔を見るに悪い気はしていないようだ。
セイラ嬢が戻ってきたらまず夫人に話しかけて黒い靄のことを切り出し、その後侯爵に呪いについて報告する段取りになっている。もちろん夫人はそうとは知らないはずだが、嫌がらせがドレスだけではないとしたら…
まずいな。
*
「さっきのアレ、悪手だよなー。異母妹ちゃん、可哀そうに。」
「そうそう。相手のドレスに飲み物こぼすなんて、十中八九わざとだって。男はみんなそう思ってるのにな。」
「女性方にも競争があることは存じてますが、できれば嫌がらせではなく自分の頭脳で競って欲しいものです。」
「私も嫌がらせされても毅然としてる令嬢、さらに欲を言えば、相手を言葉でやり込めるような機転の効く令嬢がいい。それくらいでなくては侯爵夫人は務まらない。」
「なになに、ご令嬢の品定め?」
「お、エドガー休憩戻ったか。良いご令嬢の条件ってやつさ。」
「ご令嬢と言えば、女神様。なんかトラブルみたいだよ、グレッグ。」
「ドレスの件ではなく?」
「いいや、着替えに入った客室から出られなくなってるかも。メイドや従僕達が鍵がないとか話してるのが聞こえた。」
「ほう?我が家でそんなお粗末な管理体制を敷いてるとは。」
グレッグの目が険しくなった。
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