27.パーティー当日⑥セカンドダンス
異母兄グレッグとのダンス練習は、グレッグ専属執事のピアノ伴奏に合わせて2曲踊ることになった。
正直言うと、こちらを観察しているかのように見えるギョロ目はまだ苦手だが、グレッグは義母やクリスタほどわたしを嫌ってはなさそうだ。
二曲目となり少し緊張も解けて余裕が出てきた矢先だった。
「クリスタが第四王子殿下と踊りたいと願い出たとは。
殿下は容姿がいいから…惚れたかもしれないな。どう思う?」
「え?わたしですか?どう、とは?」
一気に頭の中がぐるぐるしてしまい、踏んでいるステップがわからなくなってしまった。
「おっと、大丈夫だ、落ち着いて。ワンツースリー、ワンツースリー…
そうだ、顔を上げて。もし躓いてしまっても落ち着いてステップをとれば挽回できる。」
「すみません、お異母兄様。」
「大丈夫だ。私の質問が困らせたようだし。」
「あの、その、お異母姉様が、王子殿下をお慕いしてる、かも、という…どうでしょうか…」
口に出したら途端に胸が苦しくなった。何となく嫌だなと思うのは何故なのだろう。
「セイラ、顔を上げて。まだダンスの途中だ。
私は母上が良い顔をしないと思うけどね。」
「どうしてですか?王族でいらっしゃるのに。」
「第四王子殿下は王位継承権も高くないうえ、母上はクリスタが他国に嫁ぐのは嫌がると思うからさ。」
「そうでしょうか。もし王子殿下もお異母姉様を気に入ったら…」
「はい、練習はここまで!とても良く踊れていた。この調子でお願いするよ。そろそろ広間へ戻ろう。」
「はい、ありがとうございます、お異母兄様。
大事なパーティーの合間に貴重な時間を割いて頂きまして。大変助かります。」
お礼を言った後、お互い少し身嗜みを整え広間へと戻る。グレッグはもうクリスタの話をしなかった。
ダンスの時間になるまではグレッグの傍にいることにした。兄の元には級友とは別の貴族子息たちが代わる代わるやってきて歓談をした。その度に自己紹介をしなければならなかったが、王子とクリスタが仲良く寄り添っている想像が頭をよぎって上の空であったため、誰が来てどんな話をしていたか頭に入ってこなかった。
やがて広間に流れていた音楽が止み、人々も歓談を止めて広間の中央を空ける。ダンスの時間になったのだ。
グレッグに手を引かれて移動すると、少し離れた場所から歓声が聞こえる。声のした方を見ると、王子が華やかな衣装に身を包んだクリスタの手をとっているのが見えた。王子がクリスタにダンスを申し込み、クリスタの周りにいた令嬢達が黄色い声を上げたのだろう。二人がとてもお似合いに見えた。
「セイラ、笑顔だ。」
「え?」
「泣き出しそうな顔をしている。」
「え?」
グレッグの言葉にびっくりして顔を触ろうとしたが、グレッグに手を掴まれた。
「美しい顔を歪ませては台無しだ。大丈夫、セイラはもっと自信を持つんだ。
私と優雅に踊る様をみたら、きっと王子殿下もダンスを申し込みたくなるはずだ。」
そういってウィンクをした。ギョロ目のウィンクは不気味に見えたが、それが気持ちを切り替えさせてくれた。そうだ、たかがダンスなのだ。今日の目的は作戦を遂行することだ。
まず一曲目は侯爵である父と侯爵夫人である義母のダンス。拍手に続いて二曲目が始まると、王子とクリスタのペア、グレッグとわたしのペアがダンスに加わり三組のペアが皆の前でワルツを踏んだ。
踊るクリスタのドレスが光を反射してキラキラと輝くのが視界に入って、王子とクリスタのことが気になったが、なるべく見ないようにして自分の踊りに集中した。
曲が終わるとグレッグから離れて淑女の礼をとる。これでダンスは終わりだ。
「美しいお嬢さん、次は僕と踊って頂けませんか?」
ふと声の主を見ると王子がわたしに微笑みながら手を伸ばしていた。
嬉しさがこみ上げる。
「はい!喜んで!」
王子の手に自分の手を重ねると頬が赤らむのを感じた。わたしは王子と踊ることを望んでいたのだと理解した。
王子と踊り始める。王子の顔が近くて恥ずかしい。
王子とは数回会ったことがあったが、こんなに密接したことはなかった。いや、最後に会った時に手の甲に口づけをされたか。
思い出したらさらに耳まで熱を帯びたのを感じた。
「よかった、僕の贈り物つけてもらえましたね。」
王子の言葉に急いで顔を上げた。そうだ、お礼を言わなければ!
「ありがとうございます、マキシミリアン殿下。
わたしの目の色を覚えていて下さったのですね。素敵な贈り物、とても嬉しいです。
それに早速役に立っておりますし。大変助かりました。」
「せっかくのアメジストも、あなたの前では霞んでしまうことでしょう。僕に見えないのが残念です。
先程からあなたの美貌に魅了された紳士達が、こちらをチラチラと見ていますよ。」
「え?クリスタお異母姉様ではないのですか?」
クリスタはグレッグとペアになって踊っていた。踊り慣れた相手だからか、とても優雅に自信に満ちて踊っているように見えた。
「いえ、クリスタ嬢を見ている連中もいますが、セイラ嬢にも視線が集まっています。
このまま続けて踊りたいところですが、そういう訳にもいきません。あなたの父上も次はクリスタ嬢と踊ることでしょうし…
あなたは化粧室に行くと言ってこの場から離脱するのがよいでしょう。でも終盤までに戻って来て下さいね。」
「はい、わかりました。
あの…ありがとうございます。わたしのために色々とお気遣い頂きまして。」
サラの目は潤み頬は上気し、色気が漏れ出していた。そんなサラには色んな視線が集まっていたが、夢心地のサラは気付く由もなかったのだった。
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