25.パーティー当日④心強い顔見知り
なかなか話のスピードが上がりません(汗
化粧室から広間に戻った。
なるべく父のそばにいないとと思って広間を見渡す。父のそばには沢山の男性がいる。行きづらい…
王子はどうしているだろうか?前髪に貰ったヘアピンを付けたのだが、見てもらえるだろうか。
今日の装いとわたしの目の色に…目の色!アメジスト色の目に合わせて紫色…きっとアメジストね、よく見ておけばよかった!わたしの目の色と同じ色の石を下さったなんて…気付いたらとても嬉しくなって胸が温かくなった。
もう一度お礼を言いたいけれど、こういった社交の場では王族は気さくに話しかけていい存在ではない。ましてや未婚女性が男性に話しかけるのははしたないことで、父や兄に紹介してもらって会話の場を設けるのが貴族のマナーだ。
キョロキョロとしていると、招待客の男性に声を掛けられた。
「こんばんは、スプングリス侯爵令嬢。誰かお探しでしょうか?あなたの探している幸運な相手が、ボクであれば嬉しいのですが。」
垂れ目ににやけた口元と口髭があるように見える男性だ。締まりのないお絵描き顔で良い感じがしないし、もちろん誰だかわからない。
「こんばんは。ただ父を探していただけですわ。わたしは行かなければなりませんが、当家のパーティーをお楽しみいただけますよう。では失礼します。」
「あっと!貴女のお父上は他の方々とお忙しそうだ。少しボクとお話をしませんか?
ボクはタイロンと申します。バヌーティ伯爵家の次期当主となる身です。」
行く手をさっと遮られてしまった。困った。
「本日は異母姉クリスタの成人誕生パーティーにお越し下さりありがとうございます、バヌーティ伯爵子息様。」
「そんな堅苦しくせずにタイロン、と呼んでいただけませんか?美しいご令嬢。」
「いえ、そんな恐れ多い。それにわたしなど異母姉の美しさに比べたら足元にも及びません。」
「貴女のお異母姉さんも美しいが、貴女もとても美しい。
いや、貴女の美貌について噂は聞いていたのですが、お会いする機会がなかったので。ですがこうして目の前にすると本当に美しい。」
「わたしには過分なお褒めのお言葉です。ぜひ異母姉にお伝えします。それではそろそろ行かなくては。」
「あっと、では行かれる前に一つ!」
またしても行く手を遮られた。なかなか手強い。
「はい。」
「後でボクと一曲踊って頂けると約束して頂けませんか、美しいご令嬢?
なにせ貴女のお異母姉さんは本日の主役。すでに先約でいっぱいでしょうから、代わりに踊って頂きたいのです。」
「いえ…わたしはダンスは苦手ですので、御足を踏んでしまっては申し訳ございませんので、」
「いいえ、全く構いませんよ。是非ボクを練習台にと思って下さい。」
これは困った。断るのに難儀していたその時、見知った顔が近づいて来た。
「これはサラ嬢、最近はどうかな?もう我が部隊には見学に来ないのかい?」
「あ、アーノルド様。本日は当家のパーティーを楽しんでおられるでしょうか?
訓練という大事なお仕事を邪魔してはなりませんので、見学はまた機会があればと考えております。」
「おっと、歓談中だったかな。君は確かバヌーティ伯爵家の子息だったな。」
「これはフラーゲンクルト伯爵様、ご無沙汰しております。
スプングリス侯爵令嬢とはちょうど話し終えるところだったのです。お気になさらずに。ではボクはこれで失礼します。」
「あまり女性にしつこくすると見苦しいですのでお気を付けを。」
治安維持部隊の総隊長は去ろうとする伯爵子息に何かを呟くと、慌てるように遠ざかって行った。
助かった。
「大丈夫だったかな。困っているようだったからつい助け船と思ったんだが。」
「いいえ、大変助かりました。ありがとうございました、アーノルド様。」
「私もこういった社交の場は苦手でね。部隊で厳つい男共を相手にしていた方が落ち着くよ。」
「まあ!」
「ついでだから彼も紹介しておこう。」
総隊長のアーノルド様はそういうと後ろを振り向いて軽く手を挙げた。
やってきたのは細身だが鍛えられたように見える男性だ。顔は精悍な顔つきの若い騎士、といったお絵描き顔に見える。
「彼は近衛騎士隊長を務めるウィルフレッド、ブリスタル伯爵家の次期当主だ。
ウィル、こちらはスプングリス侯爵家のサラ嬢だ。」
「初めましてスプングリス侯爵令嬢。」
「はじめまして、ブリスタル伯爵子息様。」
「こいつも普段は王城で近衛の任についてるからな。こういった華やかな夜会は苦手で私と話すことが多いんだ。」
「そうなのですね、わたしも同じです。社交の場も苦しい盛装も苦手です。学校で勉強をしている方が落ち着きます。」
「ははは、そうか。本部の訓練に見学に来るぐらいだものな。治安維持部隊に入りたいときはいつでも声を掛けるといい。」
「いえいえ、わたしなどにはとても務まりません。将来は神殿に従事できればと考えております。」
「そうか、神官を目指すのも悪くない。頑張るといい。」
「ありがとうございます。」
「サラ嬢はお父上の元に行きたいのかな?そこまでご一緒しよう。
私とウィルは侯爵と歓談をしたら適当に下がるつもりなのでな。」
「重ね重ね、お気遣いいただきありがとうございます。」
この鷹のように見える鋭い眼光の持ち主である総隊長は、気配りのできるやさしい紳士だった。治安維持部隊見学の時に総隊長に出会っていたことを心より感謝した。
伯爵当主でもある治安維持部隊総隊長と、次期伯爵当主である近衛騎士隊長とともにいるサラを密かに目で追っている者達、面白くなさそうに端から見ている者達がいたことにサラは気付いていなかった。
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