22.パーティー当日①義母の先手
昨日は更新が間に合いませんでした(ーー;)
成人誕生パーティーの当日になった。
昨夜はお風呂の後にオイルマッサージとパックを全身にされて、今朝も軽く上半身と頭のマッサージとパックを施された。パーティー前段階から準備しないといけないのがいつも苦手で、パーティー終盤にはぐったりと疲れてしまう。
夜会のパーティーは18時頃から始まるが、17時を過ぎると少しずつお客様がやってくる。これは招待客が主催者に挨拶をする為だ。主賓ともなれば位が高いので順番を待たずに主催者に挨拶をできるため、パーティー開始ぎりぎりに到着することが多い。
主催者側は16時までには着付けとヘアメイクを済ませて、サロンで待機するというのが大体の流れだ。
わたしは15時に本館に来るように事前に指示されていたので、ドレスと小物アクセサリー等一式を侍女アルマとメイドのエミリーに運んでもらって移動した。
通されたのは来客用の一室だ。部屋には着付けとヘアメイクのために数人が待機していた。
「お待ちしておりました、お嬢様。
私どもは普段アルメイドロ劇場でヘアメイクを専属している者共でございます。
本日は侯爵夫人よりお嬢様のヘアメイクを仰せつかっております。どうぞ宜しくお願い致します。」
「まあ!アルメイドロ劇場といったら大人気劇場ではありませんか!
どうぞサラお嬢様をお美しく飾り立ててくださいませ。お願い致します。」
「どうぞ宜しく。」
「パトリシア様の手配だというから身構えましたけど、杞憂だったようですね。
ドレスといいヘアメイクといい、今回は何の魂胆もなさそうです。」
後ろでアルマが小声で言った。
「こちらが今回のドレスに、手首に巻くリボン、パンプスでございますね。」
「あとはこちらにダイアモンドの耳飾りとネックレスがあります。」
今回はドレスにアメジストが縫い付けてあるので、アクセサリーは同色を避けてダイアモンドを用意した。どちらも花を模した形をしていて、可愛らしいわたしのお気に入りだ。
「かしこまりました。こちらにお掛け下さい。髪を巻いてからメイクを始めさせて頂きます。」
アルマはわたしの後ろに控えている。
プロなだけあって手際よく進んでいく。爪に銀の色を乗せたあと、乾燥させている間にヘアセットに入った。
巻いていた前髪をおろして櫛と艶出しクリームで整えていく。進めていくうちに、ん?と気付いた。
「前髪はおろしたままなのですか?」
「お嬢様は目立つのがお嫌いだと伺っております。少々控え目な髪型に仕上げました。」
前髪は巻いたあとなのでふんわりとふくらんでいて余計に厚みがあるように見え、両サイドは髪を一束たらし、後ろは低い位置で丸くまとめられている。
本当に言葉通りパーティーには控え目な髪型だった。普段のわたしだったら喜んでいただろう。
「あの、前髪を上げてもらえませんか?夜会パーティーでは控え目過ぎる気がします。」
「ですが侯爵夫人より目立ち過ぎないよう控え目な髪型を好まれるので、このように、と仰せつかっていましたが…私共で確認して参りましょうか?」
「そう、なんですね…では前髪はおろしたままでいいので、横に流して頂けませんか?
目にかかって前が見えにくいのです。」
「わかりました。それでしたら目にかからないように致しますね。」
なんてことだ。義母はわたしのドレスもヘアメイクも、今日の主役であるクリスタよりも目立たないように密かに先手を打っていたのだ。“上品な”とか“控え目な”とか聞こえはいいが結局は地味にまとめたかっただけだ。
自分の顔はよく見えないのでメイクの出来栄えはわからない。実際は寒色系のアイシャドウに、薄桃色の口紅、本当にほんのり色が乗った程度の頬紅で、薄化粧と言うよりむしろ血色悪そうだった。
メイクは兎に角、王子には目がよく見えるように着飾って欲しいと言われていたのに、これではいつもと然程変わらない。横に流してもらったので、しっかりと背筋を伸ばして顔を上げていれば目が隠れることはないだろうが。
「サラ様、どういたしますか?私が後で手直し致しましょうか?」
続いてビスチェとペチコート姿になってドレスを着せてもらった後、アルマがアクセサリーをつけながら小声で聞いてきた。
「とりあえずパーティーが始まるまではこのままでいいわ。サロンでお義母様と顔を合わせるときに指示と違うヘアメイクだったら、この人達が罰せられるかもしれない。
大広間に向かう時にお化粧室で急いで手直しするのがいいかと思う。」
◇
16時にはサロンに入った。父と異母兄が先に来ていたようだ。お決まりの挨拶と互いの盛装を褒めあった後、父が紙を手渡してきた。招待客リストだ。
「サラ、今日はクリスタが主役だから全招待客を把握する必要はないが、主賓のテラディウス王国第四王子、公爵家、侯爵家、辺境伯家は覚えていて欲しい。挨拶は必須だからな。
なるべく私の側かグレッグの側にいれば、他の貴族にそう容易に話しかけられたりダンスに誘われたりはしないだろうから、今日はなるべく離れないようにな。」
「わかりました、お父様。」
作戦のことも兼ねているのだとすぐに理解した。
「お待たせしました。クリスタの準備が整いましたわ。」
「お父様、お兄様、お待たせ致しました。ご機嫌いかがでしょうか?」
義母と異母姉が入ってくると、今日の主役を褒めそやす言葉がサロンに溢れた。
「お異母姉様、お誕生日おめでとうございます。とても似合っておいでです。大変美しいです。」
「あら、ありがとう。当然よ。今日は私の記念すべき成人誕生パーティーですもの。
あなたはー…いつものように奥ゆかしい身なりね。でもそのドレス…なんか見覚えが、あると思ったら!
私が却下したデザインじゃない!ふふふ、上品って言ったら聞こえはいいけど既婚者向けのドレスよね。ふふふ、地味なあなたにはお似合いだわ!
ああ、でもその派手な顔はちゃんと髪の下に隠しておいていただきたいわ。侯爵家としての品位が疑われたら困りますもの。ふふ。」
父に聞こえないよう小声で厭味を言い終わると、さっさとソファに座って義母と談笑を始めた。
今日はクリスタにとって記念すべきパーティーであるけれど、わたしにとっても人生を賭けた譲れない作戦決行の日なのだ。落ち込んでる暇はないと前を向いた。
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